あきりんの映画生活

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「愛されるために、ここにいる」 (2005年)

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2005年 フランス 93分
監督:ステファヌ・ブリゼ
出演:パトリック・シェネ、 アンヌ・コンシニ

大人の恋物語。 ★★★☆

静かな(主人公も寡黙)、地味な映画。
しかし、余韻が残る佳作。

主人公は50歳ぐらいで独り身のジャン・クロード(パトリック・シェネ)。
裁判所が下した命令の執行官という、他人からは恨まれたり憎まれたりすることの多い仕事を黙々とこなしてきた。
同じ仕事をさせようとした息子とは、うまく打ち解けることもできない。
施設に入っている老いた父を週末ごとに訪ねるのだが、その父ともぎくしゃくとした関係。

主人公の孤独な生活、孤独な人生の様子が、淡々と描かれる。
物語ではジャン・クロードは50歳ぐらいの設定のようだったが、パトリック・ジュネは60歳を過ぎた風貌に見える。
これも疲れた人生が顔や身体に染みついているせいか。
人生に愛されてこなかった? 何処に行けば人生に愛された?

ジャン・クロードは仕事場の窓から見えたタンゴ教室に通い始める。まるで、Shall We ダンス?
そこで魅力的な女性フランソワーズ(アンヌ・コンシニ)と親しくなっていく。
こんな老いた自分に彼女が親しげに接してくれるなんて、ひょっとしたら・・・?(苦笑)

老いらくの恋を扱ったものとしては「鑑定士と顔のない依頼人」があった。
あちらはサスペンスものだったが、こちらは徹頭徹尾、愛の物語であった。
しかし実は、フランソワーズは結婚を間近にひかえており、結婚式で踊るためにレッスンを受けに来ていたのだ。あれ・・・?

この映画で大きな役割を担うのがタンゴという踊り。
親しくない者同士ではおずおずとした組み方での踊りになるのは当然だが、やがて踊る者同士の気持ちが伝わりはじめるようなのだ。
気持ちが通い合った者同士が踊るタンゴは、まるでS○Xをしている以上に二人が一体になっているような錯覚に陥るほど。
踊るときに、フランソワーズがジャン・クロードの肩に深く回した左手が、彼女の気持ちを巧くあらわしていた。

フランソワーズを演じたアンヌ・コンシニという女優さんは、「あるいは、裏切りという名の犬」や「灯台守の恋」にも出ていたらしい。
この映画の時は40歳を過ぎていたようだが、なんとも魅力的だった。
不可思議な微笑をたたえている。

物語の脇もよかった。
ジャン・クロードが幼いころから頑張ってきたテニスでもらった優勝トロフィーを、頑固で偏屈者の父は、あんな場所ふさぎはみんな捨ててしまった、と言う。
腹をたてたジャン・クロードは怒りを爆発させて、ついに父と決別してしまうのだが・・・。

ジャン・クロードの事務所に勤めるオールド・ミスの事務員がいる。
とこどきジャン・クロードの部屋の立ち聞きをしたりするのだが、彼女が味わい深い忠告をしたりしてくれる。

そして、フランソワーズの結婚予定を知ったジャン・クロードはおそらく自尊心も傷ついて、フランソワーズを拒否してしまう。
しかし、誤解から父を愛することができずに後悔したジャン・クロードは・・・・。

最後にジャン・クロードとフランソワーズはかすかな微笑みを交わしながらタンゴを踊る。
はたして二人がこの後どうなったのか、映画は何も説明しない。
ぼんやりとかすむような情感が、観ている者に残る。
いかにもフランスの雰囲気がする良い映画だった。

ところで、何かの解説によれば、この英語の原題は、「愛されるためにここにいるわけじゃない」とのこと。
この原題と邦題との違いを考えはじめると、なんとも微妙で面白い。
どちらがよりよく映画にマッチしている?