2014年 アメリカ 137分
監督:クリント・イーストウッド
出演:ブラッドリー・クーパー、 シエナ・ミラー
イーストウッドのシリアス戦争もの。 ★★★☆
クリント・イーストウッドが描く中東戦争もの。
主人公は実際にイラク戦線で狙撃手として活躍した海兵隊隊員クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)。
イーストウッドはクリスのなにを描きたかった?
ざっとあらすじを紹介してしまうと・・・。
アメリカ同時多発テロをテレビで見た青年クリスは、祖国愛からネイビー・シールズに入り、優秀な狙撃手となる。
イラクに出征したクリスは、その狙撃の腕で味方を幾度となく救い、“レジェンド”と賞賛されるまでになる。
実際に彼は4度にわたってイラクに派兵され、160人以上を狙撃したとのこと。
狙撃手の孤独な戦いの緊張感が切実に迫ってくる。
冒頭近くの、戦場に現れた子どもを狙撃するべきか否かの場面から、すさまじい精神力と集中力に主人公が置かれていることが伝わってくる。
その人を撃つか撃たないか、要するにその人を殺すか殺さないかの判断を自分でおこなわなければならない。
狙撃手の特異な点は、その判断を下す相手をピンポイントで自分が選んでいるというところにあるように思えた。
一般的な戦闘状態では殺そうとする相手は、敵という集団の中に埋もれている。
集団対集団の殺し合いという概念だ。
しかし狙撃手は殺す相手を自分で選ぶのだ。
自分の判断で選んだ相手を、自分の判断で撃ち殺すのだ。
いわば、他人の生殺与奪権を与えられた人間、ということもできる。
イーストウッドが狙撃手を主人公に選んだのはそのあたりを描きたかったからではないだろうか。
優秀な狙撃手であるクリスも、故郷に戻れば家族を愛する普通の人物。
だったはず。・・・だった。
上記のような追い詰められた特殊な心理状態に陥れば、正常の神経でいられなくなるのも判る気がする。
帰国したのにすぐに家族の元へ戻ることが出来ずに、一人で酒場でお酒を飲まざるを得なかったクリスの姿が印象的だった。
そんなクリスに思いもよらなかったことが起きて映画は終わっていく。
(あの結末は映画を撮り始めてから起こったということで、急遽シナリオを書き換えたとのこと。)
この映画でイーストウッド監督は、声高に反戦を叫んでいるようには感じなかった。
といって、もちろん主人公の行為を英雄視して描いているわけでもない。
過酷な状況に置かれた人間を冷徹に描いている、その人間性を追っている、といった撮り方のように思えた。
(以下、個人的な感想です)
ただ象徴的にいえば・・・。
”家族を、国を守る番犬たれ”と父に教え込まれて、自分はその番犬になるのだ、という使命感を持ったクリスは、どこかアメリカそのものに似てはいないだろうか。
”世界の番犬たれ”とわが身を奮い立たせているアメリカ・・・。
世界を守るために、と、スコープの中に標的を選んでいるアメリカ・・・。
いずれにしても、80歳を超えたイーストウッドの凄さにあらためて脱帽でした。