あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。1800本余りの映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。

「時代屋の女房」 (1983年)

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1983年 日本 97分
監督:森崎東
出演:渡瀬恒彦、 夏目雅子、 津川雅彦

覇気のない人情ドラマ。 ★★★★☆

上に”覇気のない”と書いたが、これは貶し言葉ではない。
どこか投げやりで、虚無感を抱えて生きていた80年代の日本の雰囲気がよく出ている。
こういう映画を観ると、つくづく日本映画も好いなあと思ってしまう。
外国映画には絶対にないような哀愁感が、映画全体に薄もやのように漂っているのだ。

歩道橋のそばで「時代屋」という骨董屋をやっている安さん(渡瀬恒彦)のところに、ある日、真弓(夏目雅子)が転がり込んでくる。
家出猫のアブサンと一緒で、姓も年齢も、どこから来たのかもわからない。
安さんもそんな彼女をそのままで受け入れる。

二人はお互いに刹那的のつながりのようでいて、しかし、今の相手をそれぞれに必要としている。
二人をつなぎ止めているものがとても脆いものであることが、どこか切ない。

真弓には家出癖があって、時々いなくなる。
でも、一週間ぐらいで何事もなかったように帰って来る。彼女はどこへ行っていた? 彼女は何をしていた?

時代屋の近所の人たちも描かれる。それぞれに味わい深い人たち。
中でも、喫茶店の中年不良のようなマスター役の津川雅彦が好い味を出していた。

真弓がまたいなくなる。
いつもの家出とは様子が違う。今度だけは帰ってこないような気がする。でも、どうすることもできない。

そんなときに安さんは美里(夏目雅子の二役)とひょんなことで知り合い、関係を持ってしまう。
挿入されるこの美里の物語などは、映画全体の構成からすれば破綻以外の何ものでもない。
でも、好いのである。
実は、東京での夢が破れて、明日は結婚するために東北へ帰らなければならなかった美里。
そんな彼女に頼まれて安さんは駅のホームで端まで走り、手を振って見送る。
自分にも東京で別れを惜しんでくれる人がいたと言う思い出を作りたかった美里の、泣けるような小さな頼みだったのだ。

それにしても夏目雅子が好い。
日傘をくるくると回しながらやってくる姿や、浴衣姿でのぞきからくりの前で踊る姿など、その透明感が溢れる美しさには、完全に脱帽。

(ネタバレあり)

真弓は、人生に絶望した青年を立ち直らせるためには、自分の身体も与えてしまう。
彼女はまるで、悩める者のためにわが身を削り取ってしまう天使でもあるかのよう。
この自己犠牲もいとわないような真弓の危うさに惹かれてしまう。

結局、真弓が何物なのか、最後まで明かされることはない。
映画の最後、真弓はあっけらかんと歩道橋を渡って安さんの元へ戻ってくる。
ハンドバッグ代わりに、安さんがほしがっていた古い南部鉄瓶をぶら下げて。

世評は必ずしも好くないようですが、映画全体に流れるどこかたよりなげな雰囲気、それに夏目雅子の魅力で、私のお気に入り作品です。
彼女はこの映画の2年後に白血病で亡くなっています。28歳でした。
惜しい女優さんでした。