監督:黒沢清
出演:浅野忠信、 深津絵里
亡くなった夫との旅。 ★★★
3年前に失踪した夫・優介(浅野忠信)がふらっと妻・瑞貴(深津絵里)の元へかえってくる。
そして、俺、死んだんだよ、と言う。
久しぶりにかえってきた夫が幽霊だったら・・・、そりゃあ、普通は驚く。
しかし、この映画の瑞貴はあっさりとそれを受け入れる。
まるで、そのことを予感していたのでは、と思うほどに、淡々と受け入れる。
この映画の不思議な静けさがここにはある。
そして瑞貴は優介に連れられて、彼が放浪していた3年間の旅路を一緒にたどる。
その旅先で再会する人は、みな優介が見えているようだ。
優介が未だ生きているかのように、普通に会話をして、普通に接してくる。
行く先々で優介は歓待される。
それだけ優介は放浪先で濃密ないい時間を送っていたわけだ。その間、瑞貴をほっておいて・・・。
この映画でもう一つ判らなかったのは、そんな優介の気持ち。
一体、優介は何を求めて放浪していた? なぜ、死後になってから妻の元へ戻ってきた?
今さら一緒に旅をしようなんて、自分勝手じゃない?
(彼は、あの頃は病気だったんだ、と言ってはいるのだが・・・)
それはともかく。
浅野忠信と深津絵里の二人はとてもよかった。
しみじみとした落ち着きがあって、その静かさがどこか非現実的な空気感をよくあらわしていた。
旅先で会った人たちの中で印象的だったのは、新聞配達所のおじさん(小松政夫)。
働き者の気のいいおじさんなのだが、このおじさんも実は深く抱えているものがあったのだ。
観ていると、まるで死者なのは瑞貴の方ではないのかと、思えてきそうにもなる。
そう思わせるほど、物語はこの世とあの世のあわいを旅していく。
美しい海岸で優介はふっといなくなっていく。
優介が瑞貴の元へ戻ってきた思いは、はっきりとは語られないままに映画は終わっていく。
最後まで静かな映画でした。
カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で監督賞を受賞しています。