監督:ダニエル・アルフレッドソン
出演:ジム・スタージェス、 サム・ワーシントン、 アンソニー・ホプキンス
史実に基づいた誘拐劇。 ★★☆
ハイネケンというのは、あの世界的に有名なビール会社の創始者。当然、大富豪。
そのハイネケンを誘拐し、身代金を要求した事件が1983年にあった。
この映画はその顛末を描いている。
幼なじみ4人で経営していた会社が倒産してしまう。
仲間の弟を加えて彼ら5人は、綿密な計画を立て、ハイネケンの身代金誘拐を企てる。
監禁しておくための防音部屋も倉庫の中に作り、外からは判らないように細工もする。
そして、見事に誘拐に成功する。
この映画の特異な点は、始めから終わりまで犯人側の視点で描かれていること。
ハイネケンが誘拐された家族の様子が映されることもないし、警察の動きが映されることもない。
だから、観客はひたすら犯人たちと同じ視点で事件の推移を見守ることになる。
警察の動き、捜査の状況などは、犯人と同じように新聞記事やTVの報道で知ることだけなのだ。
ここは惜しい点のひとつだった。
せっかくそのような描き方をしたのだから、新聞報道などからの捜査状況が本当なのか、それとも自分たちを油断させるために嘘の報道を流しているのか、犯人たちが疑心暗鬼になる様子も描けば、もっと映画に深みが出たように思う。
ハイネケン役にあの、アンソニー・ホプキンス。
とくれば、ハイネケンがただの大富豪生活に安穏としている人物ではないだろうと、観ているものは期待する。
誘拐されて囚われの身の彼が、犯人たちに心理的な何かをしかけるのではないか、と期待もするというもの。
実際、予告編やDVDのパッケージの惹き文句は、それを思わせるようなものになっていた。
しかし、しかしである。
ハイネケンは、ただの囚われ人だった。
強い精神力で拘束状況にへこたれることはなかったが、ただの囚われ人だった。
なあ~んだ、残念。
邦画に「大誘拐」という傑作映画があった(岡本喜八監督)。
金に困った若者たちが旧家の老女を誘拐するのだが、この老女が若者たちを手玉に取るという痛快映画だった。
老女は自分の身代金の額を聞き、そんなはした金ではダメだと金額をつり上げ、身代金の受け取り計画まで練ってしまう。
もし、この映画を未見の方がいましたら、これは絶対のお勧め映画ですよ。
それはさておき。
この映画そのものは、誘拐犯人たちの人物像も好く描けていて、適度の緊張感も持続する。
見事に身代金を手に入れた犯人たちは、どうなったのか。
誘拐されていたハイネケンはどうなったのか。
これらの展開は史実どおりらしい。
で、ややもの足りないところもあった(通報者って、誰?)。
少し史実を離れてでももうちょっと脚本を錬れば、傑作になったであろう映画。
惜しいぞ。