あきりんの映画生活

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「サムライ」 (1967年)

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1967年 フランス 105分
監督:ジャン・ピエール・メルビル
出演:アラン・ドロン、 カティ・ロジェ、 ナタリー・ドロン

孤独な殺し屋。 ★★★★☆

つい先日、アラン・ドロンが引退することを発表した。
ああ、そういう時がきたかという思いである。
アラン・ドロンと言えば、「太陽がいっぱい」、「太陽はひとりぼっち」、「冒険者たち」、そしてこの「サムライ」である。

さて。
アラン・ドロンである。トレンチ・コートである。孤独な殺し屋である。
メルヴィル監督とドロンが組んだ作品は、たしか3本あってどれも傑作なのだが、その中でもこの作品は素晴らしい。

オープニングは、うす暗く、家具もほとんどないような部屋。
静寂のなかに小鳥の鳴き声だけが聞こえ、窓の外は雨。
誰もいないと思われた部屋の、ベッドに横たわったかすかな人影から煙草の煙がゆっくりと立ちのぼる。
もう、この場面から惹き込まれる。

全編を通して台詞はとても少ない。
言葉による説明はなく、ただ青みがかった硬質な映像で物語を切りとっていく。
寡黙な主人公の行動をていねいに映し出す。

アラン・ドロン扮するジェフは孤独な殺し屋である。
恋人のようなコール・ガール(ナタリー・ドロン)にアリバイ工作を頼んでは、殺しをおこなう。
その生活ぶりは簡素で、一切の余分なものをそぎ落としているようなストイックさがある。
それでいながら、 細かいところに偏執的にこだわる。

部屋を出るときにはいつも鏡に向かい、身だしなみを確認し、それから最後に帽子のつばを二本の指でさする。
この、なんの意味もないような事へのこだわりの動作が、寡黙な殺し屋のありようとして、非常に格好がいい。
この映画は、以後の孤独な殺し屋の姿の原型をつくったのではないだろうか。

それもアラン・ドロンだからこそのビジュアルである。
トレンチ・コートにソフト帽のドロンがパリの街並みを歩く姿は、それだけで絵になっている。
(この映画を初めて見たころ、若かった私はかなり高価なイギリス製のロングのトレンチ・コートを購入したものだった。
それから40年以上経った今でも、冬になるとそのトレンチ・コートをときおり着ている。)

あるとき、殺しをおこなったジェフは現場を去る際に、ピアノ弾きの女、ヴァレリー(カティ・ロジェ)に顔を見られてしまう。
しかし、なぜか彼女は容疑者となったジェフを助ける証言をおこなう。
そしてジェフが依頼された次の殺しの標的は、そのヴァレリーだった。

最後の場面、クラブでピアノを弾いているヴァレリーに近づくジェフ。
彼が拳銃を取り出した瞬間に、四方に潜んでいた警察によってジェフは無数の銃弾を受けて倒れていく。
しかし、ジェフの拳銃には弾は込められていなかったのだ。

静謐な孤独と、常に死を見つめているような生き様。
寡黙なジェフの行動は、そんなものをひしひしと伝えてくる。
余分な説明を省いた映像美とドロンの佇まい。それだけでもう充分に魅せてくれる映画だった。