あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ホーリー・モーターズ」 (2012年)

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2012年 フランス 115分
監督:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラバン、 エヴァ・メンデス

人生は夢幻? ★★★★☆

冒頭で、深夜に目覚めた男(レオス・カラックス監督自身?)が部屋のドアを開けると、そこは満員の映画館だった。
観客はいったい何の映画を観ている? それは本当に映画?

奇妙な作品である。
家族に見送られて豪邸から迎えのリムジンに乗り込むオスカー(ドニ・ラヴァン)。
彼は運転手セリーヌ(エディット・スコブ)から渡された指示書にしたがって、別の人間に変装して街のあちらこちらで別人格を演じる。
シュールな作品である。

たとえば、最初はみすぼらしい物乞いの女に変装する。
そして雑踏の片隅で通行人の誰にも相手にされないようなひとときを過ごして、次はモーション・ピクチャーの役者になり、女性相手にややセクシーな絡みのアクション場面を撮影する。

そして次は怪人になって撮影会の現場から美しいモデル女性(エヴァ・メンデス)を洞窟の奥深くに拉致する。
この怪人があらわれるときには、なんとゴジラのテーマ曲が流れる。
なんだ、こりゃ?
このエピソードの最後では、怪人が美女の膝に頭を横たえて静かに眠りはじめる。
なにか宗教的な意味合いがあったのだろうか。

途中のオスカーと男の会話には、君は何故この仕事を続けているのだ? 行為が美しいだけだ、といったものもあった。
人生のすべては演技であり、芝居なのだな。
オスカーが演じている人物の相手をしている人物も、どうやら演技をしている人物らしいのだ。

印象的な場面もあった。
たとえばマンホールから入り込んだ地下水道では大勢の人が列をなして黙々と荷物を持って歩いていた。
ふいにアコーディオンを弾きながら歩き始めると、楽団が次々にその後ろについて演奏しながらついてくる。

いろいろなオマージュも詰め込まれているようなのだ。
例の怪人は、彼の前の映画「ポーラX」で登場する”地下室男”のようなのだ。
別れた恋人が身を投げようとする廃ビルの屋上からは街灯に照らし出された大きな橋が見えていたのだが、あの橋は、もしかすればポンヌフか?

こうして11の人格をオスカーは演じていく。
オスカーなる人物が、他人に化ける任務をこなしているのかと思っていた。
しかし、違った。オスカーなる人物自身もまたアポで演じられている仮の人物像だったのだ。
1日の仕事を終えたオスカーは、別の人物となって猿の家族が待つ豪邸へ帰って行くのだ。
なんだ、こりゃ・・・。

(以下、ネタバレ)

オスカーを今夜の家に送り届けたセリーヌは、リムジンを車庫へ運転していく。
するとそこには、今日の仕事を終えた夥しい数のリムジンが次々に戻ってきていたのだ。
そうか、世界はこんな風にして出来上がっていたのか、と思わせるような種明かしだった。

原題を直訳すると「聖なる車たち」ということか。これはどういう意味なのだろうか。
神が様々な人間を創出させたことの喩ででもあるのだろうか。

まあ、そんなことはどうでもいい。
この奇妙なコラージュのような作品の豊かなイメージを愉しんだ。