あきりんの映画生活

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「セールスマン」 (2016年)

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2016年 イラン 124分
監督:アスガー・ファルハディ
出演:シャハブ・ホセイニ、 タラネ・アリシュスティ

心理をさぐる人間ドラマ。 ★★★★

ファルハディ監督には、初めて観た「彼女が消えた浜辺」ですっかり魅せられて、「別離」「ある過去の行方」と観てきた。
さあ、今回はどうだろう。

夫が帰ってきたと思い込んで家の鍵を開けたラナは、侵入してきた何者かにシャワー室で襲われてしまう。
頭部を負傷して、身体も精神も傷ついてしまう。
しかし、警察で状況を問いただされたりするのは嫌だといって、ラナは自分の殻に閉じこもってしまう。
そんな妻に苛立ち、エマッドは、それならと、自分で犯人を捜し出そうと執念を燃やし始める。

併映だった「エル ELLE」に比べると、似たような事件から始まる物語なのに、雰囲気はまったく違う。
こちらはとても感情が湿っている。触れれば崩れそうな繊細さがある。

エマッド夫婦はこの部屋に越してきたばかりで、前の住人はどうやら淫らな種類の仕事をしていた女性らしいのだ。
侵入してきた犯人は、前の住人のお客か?
(余談 : イランでもそんな風俗まがいの仕事があるんだ! びっくり)

エマッドとラナは同じ劇団の役者をしてる。
練習中の演目はアーサー・ミラーの「セールスマンの死」で、まもなく上演も始まるという日程だった。
セールスマンの死」といえば、家庭の崩壊や断絶、社会への不信感、絶望感などを描いているとされる。
エマッドとラナもこの事件をきっかけに感情のすれ違いが生じていくようだった。

何でもない・・・
別に・・・
じゃあどうすればいいんだ?・・・

劇中劇として「セールスマンの死」の練習場面や、上演場面も何度となく写される。
このお芝居のことをもっと知っていれば、監督のこの映画での狙いはより多くつかめたのだろうか。
その点はちょっと残念。

さて。
エマッドがつきとめた犯人は (つきとめることができたのはちょっと甘い展開によるが) 意外な人物だった。
この犯人を彼はどうしようというのか。
そして被害者であるエナはどういう態度に出るのか。

映画はなんともやり場のない感情を抱かせたままで終わっていく。
あとあじはすっきりとしない。
しかし、それがまたこの映画の奥行きを感じさせるところでもあった。

ファルハディ監督作に外れなし。今作を観て、ますますその間を強くしました。
アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。