あきりんの映画生活

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「ヒトラーの贋札」 (2007年)

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2007年 ドイツ
監督:ステファン・ルチョッヴィッキー

ナチス収容所での物語。 ★★★☆

ナチス英米経済を混乱させようとして、ポンド紙幣やドル紙幣の贋札を製造した“ベルンハルト作戦”というのがあったとのこと。
この映画は、その作戦を裏側から描いている。

サリーはその名を知られた贋作師だった。
その彼もユダヤ人だということでナチスに捕らえられ、強制収容所へ送られる。
いつ殺されるのか、明日の命の保証がない収容所生活だったが、ある日サリーは別収容所へ移送される。

偽札づくりのために集められたサリーや印刷技師ブルガー、様々な技術を持つ者は、他のユダヤ人収容者とは別格の扱いを受ける。
普通のベッド、普通の食事も与えられる。
しかしその生活を甘受するためには、ナチスのために偽札を作らなければならないのだ。

ここには、ナチスに荷担することによってかろうじて命が保証されているというジレンマがある。
偽札づくりを統括しているナチス将校も、巧みにアメとムチを使い分ける。
偽札づくりが順調に進んでいれば、娯楽も必要だろうといって卓球台を差しいれてくれたりする。
しかし卓球場の塀を一つ隔てた向こうからは、今日も同胞が撃ち殺される銃声が聞こえるのだ。

映画はサリーたちの置かれた状況、サリーたちの熱心な仕事ぶりを、淡々と描いていく。
ナチスに協力したからといって、誰がサリーたちを責めることができるだろうか。

しかし、印刷技術者のブルガーは違った。
彼はナチスの野望を砕くために、わざと印刷の工程を失敗し続けるのだ。
作業が滞ることに苛立つナチス将校に、サリーは必死に材料のゼラチンの不具合のせいだと嘘の説明を続ける。

しかし、ついにナチス将校は、5日以内に偽札を完成させなければお前たちを皆殺しにすると、最終宣告をしてくる。
どうすればいいのだ。

サリーはブルガーを何とか説得しようとする。
お前の信念はわかるが、そのせいで皆が殺されてしまうのだぞ。
お前ひとりが信念を貫いて死ぬのはかまわないが、俺たちまで巻き添えにするな。
さあ、どうすればいいのだ?

観ているときは、ブルガーの行為はちょっと自己中心過ぎではないかとも思っていた。
たしかにナチスの悪行にブレーキをかけているのだが、しかし、そのためにここにいる全員が死ななければならないのだぞ。
誰だって自分の命は惜しいし、それを奪う権利がお前にあるのか・・・?

(以下、ネタバレ)

たしかに偽札づくりの完成を送らせたことで、少なからぬ戦況への影響はあったようなのだ。
ナチスの崩壊は早まったようなのだ。
しかし、ナチス降伏がもう数日遅かったら、サリーたちの命は・・・。

最後のエンドクレジットで原作がアドツフ・ブルガーだったことを知った。
あの印刷技術者のブルガーである。そうだったのか。

重い内容の映画ですが、それほど悲惨な雰囲気はありません。
人にとって、命に匹敵する信念とは、と考えさせられる映画でした。