あきりんの映画生活

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「ヘッドライト」 (1955年)

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1955年 フランス 101分
監督:アンリ・ベルヌイユ
出演:ジャン・ギャバン、 フランソワーズ・アルヌイユ

初老の男の恋。 ★★★☆

久しぶりに「シシリアン」を観たので、同じベルヌイユ監督とジャン・ギャバンのコンビの作品を鑑賞。
哀愁の漂うジョゼフ・コスマの主題曲にのっての、切ない恋物語だった。

冒頭に、強い風が吹いている街道筋の宿屋の遠景が映る。
モノクロのこの場面からして美しい。
もうこれだけで詩情があふれる映画だということが伝わってくる。
映画は、長距離トラック運転手のジャン(ジャン・ギャバン)の回想モノローグで始まる。

二年前のある日、ジャンはいつも休憩や仮眠で立ち寄る宿屋で、勤めはじめたばかりのクロチルド(フランソワーズ・アルヌイユ)と出会う。
親子ほども年の離れた二人だったが、互いに惹かれ合っていく。
辛く単調な仕事に追われるジャンは、家庭でも素っ気ない妻や反抗期の娘などに気持ちが荒れ果てていたようなのだ。

ギャバンの苦虫を噛んだような渋面と、低い感情を抑えたような声が、実に渋い。
そしてアルヌイユのどこか陰のある美しさがモノクロの画面にはよく似合う。
このとき、ギャバン52歳、アルヌイユ25歳である。

物語は単純そのものである。
はじめから脆く儚い恋物語が予感させられているのだが、映画はその通りに進んでいく。
どうすることもできない世間の様々な障害が二人を襲う。

(以下、最後までのネタバレ)

新しい生活をはじめることを決意して、二人は深夜のトラックでボルドーに向かう。
あたりは雨交じりの濃霧である。
運転席の二人は、まるで世界から隔絶されているかのような雰囲気をあらわしている。
そして、妊娠したことを勘違いだったといいつくろい、堕胎手術を受けたことも話さないでいるクロの体調がみるみる悪化していく・・・。

原題は「とるに足りない人々」というほどの意味らしい。
しかし、ジャンやクロのように社会の底辺に生きる人にもそれぞれの人生がある。
最後の人生を賭けた恋に破れたジャンには、もう元の生活は戻ってこない。
それが、恋に破れるということなのだろう。

映画は、冒頭と同じように強い風が吹いているあの宿の遠景で終わっていく。
悲劇のあとのやりきれなさが、いつまでも尾を引くような作品だった。良品!