2017年 アメリカ 116分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:メリル・ストリープ、 トム・ハンクス
社会派ドラマ。 ★★★☆
スピルバーグ監督がジャーナリストの矜持を真正面から捕らえた社会派ドラマ。
出演がメリル・ストリープにトム・ハンクスときては、これはもう観なくては。
タイトルになっている”ペンタゴン・ペーパーズ”とは、1967年に当時の国防長官だったマクナマラが作成した7000ページに及ぶ最高機密文書のこと。
そこにはトルーマンから始まり、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンと続いた歴代大統領がベトナム戦争に関して隠蔽したさまざまな事実が記されていた。
歴代の政府は、勝ち目がないことが明らかな戦いを止めることなく続けた。
もし、これが公になれば政府の失敗が暴かれるばかりか、それを陰蔽してきたことの是非が問われることになる。
(ああ、どこかの国の、何かの一連の報道を思い浮かべるぞ)
物語は、ベトナム戦争が泥沼化していた1971年の新聞社が舞台。
主人公は地方紙のワシントン・ポストの社主であるキャサリン(メリル・ストリープ)。
彼女は夫が急死したあとの会社を引き継いでいた。
そのころ、ニューヨーク・タイムズは“ペンタゴン・ペーパーズ”についてのスクープ記事を発表する。
当然アメリカ中が騒然となるわけだが、ときのニクソン政権は国家の安全保障を脅かすとして、タイムズは記事の出版を差し止められてしまう。
もしこれに逆らえば新聞社を潰してやるぞ!
出遅れたワシントン・ポストでは、編集主幹のベン(トム・ハンクス)が文書の入手に奔走し、やがてペンタゴン・ペーパーズの全文のコピーを手に入れる。
しかし、それを公表することが出来るのか。
ニューヨーク・タイムズは記事を差し止められているぞ。
新聞社社主として気持ちが揺れ動く様を、ストリープがさすがに魅せてくれる。
そして迷うキャサリンに報道人の使命を熱心に説くベンを、これもハンクスがさすがの演技。
やはりこの二人ならば映画がダレるはずがない。
ぐいぐいと見せてくれる。
それにしても、時の権力を告発することにはこれだけの覚悟がいるのかと、改めて考えさせられた。
すぐに思い浮かべるのは、3月2日に朝日新聞がスクープした森友学園の報告書の改ざん記事。
そして自衛隊が存在しないと言い張っていた海外派兵時の日報記録。
そして彼の国では大統領が特定新聞の記事を”フェイク・ニュース”だと言っている。
何か見え見えすぎて、呆れてしまうのだが。
ベンがキャサリンに言った印象的だったセリフは、「友人か、記者か、どちらかを選ばなくてはならない。」
なるほど、それはそうなのだろう。
キャサリンは父親の頃から時の大統領一家と親しくしてきているし、マクナマラ長官とは大の親友でもあるようなのだ。
でも、”お友達”だからといって、政治家は便宜を図ってはならないし、報道者は手加減をしてはいけないだろう。
掲載すれば間違いなく政権がポスト紙を潰しに来る。
会社そのものや、そこに働く人びとの生活が奪われてしまう可能性があるのだ。
だが、報道機関として掲載せず目をつぶれば、その役割を放棄したことになる。
どうする?
もちろん事件の結末は歴史的事実なのでみんな知っているのだが、それでも緊張感が途切れることなく、最後まで見せてくれた。
重厚な社会ドラマでありながら、エンタメ性も失っていない作りはさすがだった。
映画は、あのニクソン大統領が失墜していくウォーターゲート事件の始まりを示唆する場面で終わっていく。
憎い終わり方だった。