あきりんの映画生活

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「百円の恋」 (2014年)

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2014年 日本 113分
監督:武正晴
出演:安藤サクラ、 新井浩文

ぐだぐだ女のロッキー物語。 ★★★★

安藤サクラ園子温監督の「愛のむきだし」ではじめて観た。
なんともすごい雰囲気を持った役者だと思った。目が尋常ではない。この世の者とは思えないような目だった。
そんな安藤サクラ主演映画の2本立て。これは観に行かなくては。

一子(安藤サクラ)は32歳のぐだぐだ女。
実家に引きこもって、何もやる気のない自堕落な生活を送っていたのだが、出戻ってきた妹と喧嘩をして家を出る羽目に。
生活のために終夜営業の百円ショップで働くことになる。

もうこの一子というヒロイン、観ているだけで苛々してくるようなぐだぐだぶり。
身体はでっぷりと締まりがなく、すべての動作は面倒くさそうにのろのろ。
人付き合いも面倒くさそうで、会話にも張りはない。表情にもまったく生気がない。

そんなヒロインを演じて、さすがに「愛のむきだし」で”死んだ目のコイケ”を演じた安藤サクラ、全身でぐだぐだぶりを伝えてくる。
こんな調子じゃ、お前の人生にはこの先、何もないぞ。

百円ショップに集まってくるのも、人生の表街道からはちょっと外れたような人ばかり。
うつ病気味の店長だったり、ウザイほどにおしゃべりで狡猾そうな中年従業員だったり、店の残り物をかっさらいに来るおばあさんだったり。
しかし、今の一子はこういう場所でしか受け入れてもらえないし、生きてもいけないのだろうなあ。

そんな一子が、通りすがりのボクシング・ジムで汗を流す中年男・狩野(新井浩文)に恋をする。
しかし、一子が(純情に)すがるほどに、狩野はそんな一子をうっとうしがるようなのだ。
狩野もまた”死んだ目”を持っているような、生きるのが不器用な男。
彼は石焼きいも屋のお姉さんに言い寄られて、一子の前からあっさりといなくなってしまう。

さあ、ここからだ。
何を思ったか、一子は自分もボクシングを習いたいと、ジムに通い始める。
当然ながら、パンチはのろのろ、縄跳びだってよろよろ。それでも彼女は止めずに練習を続ける。
以前だったら考えられないようなジョギングだって、必死にしているぜ。

安藤サクラの体つきがどんどん変わっていく。
どでっとしていた身体が次第にしぼれていく。動作がきびきびしてくる。それにしたがって、顔の表情に生気が出始める。
なんでも2週間足らずの撮影期間で身体をしぼったとのこと。役者ってすごい。

パンチもそれなりに早くなる。
言いがかりをつけてきた百円ショップの代理店長にすばやいジャブを放って、ぶったおしてしまう。
おお、一子よ、すごいぞ。もう、誰にもぐだぐだ女などとは言わせないぜ。

こうなりゃ、試合がしたいっ!と一子は張り切る。
しかし、ジムの会長は、お嬢ちゃん、プロは甘くないよ、お嬢ちゃんのパンチなんか一発も当たらないよ、と冷静。
それでも、試合がしたいっ!

そして、あのロッキーのテーマ曲が流れるような壮絶な戦いが始まる。
この映画の作りからして、物語がそんなに甘くすすむはずはない。一子が一足飛びに無敵のヒロインになれるわけもない。
しかし、安藤サクラが魅せてくれるのである。打たれ続けて腫れ上がった顔で、安藤サクラが魅せてくれるのである。

最後、試合を見に来て欲しいと一子が伝えていた狩野が声をかける。
飯でも食いに行こうか・・・。

相変わらず不器用な二人なのだが(一子に言わせれば、百万ドルの価値はなくて、百円の価値しかない恋なのだが)、それでもなにか観ている者もほっとするような二人の後ろ姿だった。