あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事」 (1993年) 貴方を愛しているから諦めるの

1993年 アメリカ 
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ダニエル・デイ・ルイス、 ミシェル・ファイファー、 ウィノナ・ライダー

純愛悲恋もの。 ★★☆

 

19世紀末のニューヨークの社交界を舞台に、許されることのない恋に落ちた男女の物語。
タイトル通りにどこまでも禁欲的で、静かに恋心を溜めていく。
上品で格調が高い物語?

 

弁護士のニューランド(ダニエル・デイ・ルイス)は、メイ(ウィノナ・ライダー)との婚約を皆に披露して祝福されていた。
そんな折に、夫から逃れてヨーロッパから帰国してきたエレン・オレンスカ伯爵夫人(ミシェル・ファイファー)があらわれる。
エレンはニューランドの幼なじみだったが、その自由な考え方にニューランドは惹かれていく。
しかし、彼には一途に愛してくれているメイ(メイとエレンも親戚同士)がいるぞ。どうなる?

 

ニューランド役のダニエル・デイ・ルイスはいかにも上品で貴族然とした雰囲気を醸し出していた。
お相手のミシェル・ファイファーは少し険のある美女。
どこか思い詰めたような怖さを感じさせる。触れると火傷しそうな、そんな美女。
一方のウィノナ・ライダーは、いかにも上流階級の中で生きてきた無垢の女性の雰囲気。
しかし、実は夫の秘めた恋心にも気づき、それを巧みに制御していくのだ。
この3人の恋心が絡み合う。

 

さて、アメリカへ戻ってきたエレンは伯爵との離婚を望んでいたのだが、外聞をはばかり醜聞を嫌う一族がそれを阻止する。
夫を持つエレン、結婚したばかりのニューランド。互いに惹かれ合いながらも二人は見つめ合うことしかできないのだ。

 

あの時代のアメリカの社交界がこんな雰囲気とは知らなかった。
豪華な衣装、きらびやかな装飾と調度品の屋敷。そこに集う上流階級の人たち。
サロンといい、夕食会といい、まるでヨーロッパのよう。
この時代に別の荒野では西部劇がくり広げられていたとは信じられないぐらい。

 

ニューランドの母親役でジェラルディン・チャップリンが出ていた。
ドクトル・ジバゴ」で初々しい役をやってから30年近くが経って、さすがに初老の雰囲気となっていたが、やはりきれいだった。
音楽はバーンスタイン。こういった格調高い映画には適役なのだろう。

 

ニューランドはメイと結婚する。表面上はおだやかで満ち足りた生活が続いていく。
エレンもニューランドを避けるようにニューヨークからボストンへ転居していく。
しかし、それでもニューランドはエレンへの思いを棄てきれない。そして、夫となったニューランドが今もエレンを求めていることをメイは知っていたのだ。

 

結ばれることのないニューランドとエレンも辛いが、夫を愛しているメイも辛い。
そしてメイは自分の妊娠を夫よりも先にエレンに告げる。
それを聞いたエレンはすべての思いを断ち切ってヨーロッパへ帰国していく。
それからニューランドとエレンが会うことはなかったのだ・・・。

 

(以下、最後の場面のネタバレ)

 

30年の月日が流れる。ニューランドとのあいだに子どもを残してメイは亡くなっていく。
初老となったニューランドに、息子がエレン叔母さんの居所が判ったと告げる。
エレンの家を訪ねるニューランド。
一度は玄関への石段を上がり始めたニューランドだったが、途中で踵を返して去って行く・・・。

 

メイは必死に自分の幸せを守り通したわけだ。
そしてそのメイが亡くなったときには、ニューランドには取り戻せない過去だけが残っていたのだ。
精神的な不倫物語とでもいった、静かな悲恋物語だった。

 

「ワイルド・スピード MEGA MAX」 (2011年) 禿げマッチョ対決、そして禿げマッチョ共闘 

2011年 アメリカ 130分 
監督:ジャスティン・リン
出演:ヴィン・ディーゼル、 ポール・ウォーカー、 ドウェイン・ジョンソン、 ガル・ガドット

シリーズ第5弾。 ★★★

 

この”ワイ・スピ”シリーズ、当初は、どうせ車好きの暴走ものだろうとたかをくくっていた。
ところがふとした時に第7作の「スカイ・アクション」を観たところ、その面白さに感嘆した。
馬鹿にしていた、ごめんなさい。
そこであらためてこのシリーズを見直したのだった。

 

このシリーズが大化けして面白くなったのは第4作の「MAX」からだろうと思っている。
今作は第5作で、舞台はリオ・デ・ジャネイロ
ガル・ガドットが扮するジゼルは前作から登場していたが、ドウェイ・ジョンソン扮するホブス捜査官は今作から登場する。
ヴィン・ディーゼルとの禿げマッチョ対決だぜ。

 

今やお尋ね者になっているドミニク(ヴィン・ディーゼル)や彼の妹ミア、ミアの恋人ブライアン(ポール・ウォーカー)はリオに逃げてくる。
そこでまずは金を稼ごうと、列車で輸送中の超高級車を盗もうとする。
へぇ、こんな風にして車を盗んでしまうんだ! なるほどなあ。
この場面からして息を呑むような豪快さである。

 

そんなドミニクたちを捕らえようと、アメリカからホブス捜査官(ドゥエイン・ジョンソン)が乗りこんでくる。
完全武装で装甲車を仕立てて、ドミニクたちが潜んでいるスラム街へ乗りこんでくるぞ。
もうこのホブスさえいれば世の悪人は全員退治できるんじゃね、というぐらいの強面である。

 

ヴィン・ディーゼルとドゥエイン・ジョンソンとくれば、スキン・ヘッドの筋肉○鹿の代名詞のような二人。
当然のことながら、二人の腕っ節争いの見せ場もある。
(このシリーズ、あとになるとこの二人に加えて、もう一人の禿げマッチョのジェイソン・ステイサムも加わってくる 嬉)

 

さて本番は、リオの街を牛耳っている悪役ボスとの対決。
なにしろ1億ドルもの大金を、グルになっている警察署の金庫に隠しているような超悪者。
ドミニクたちはその大金を盗網とするのだ。どうやる?

 

もちろんこのシリーズなので、おそらくはカー・マニアが見たらよだれが出そうな車がジャンジャン登場する。
盗んだ4台のパトカーでの街中04レースをファミリーでおこなう場面もちゃんとある。
派手でお金もかけているのだけれども、出演者からしてどこまでもB級映画に徹している(これ、褒め言葉です 汗)。

 

クライマックスは、2台の車で重い大型金庫を引っ張ってのカー・チェイス
これはすごい。
道をカーブする度に振り子のように左右にぶれる大型金庫が追跡車をはね飛ばすわ、はね飛ばすわ(笑)。
どんだけリオの一般市民に迷惑をかけているんだ?(苦笑)

 

2時間越えの結構長い作品なのだが、あれよあれよと楽しめる。
ドミニクとホブスも互いを認め合っていくしね。

 

無事に大金を手にしたファミリーのその後の姿には、つい嬉しくなってしまう。
ファミリーのジゼルとハンも睦まじくなったのだが、やがて二人には6作以後に哀しい出来事が待っているのだよね。

 

あのミシェル・ロドリゲス姐さんが扮するドミニクの恋人レティは前作で亡くなっている。
登場しないのは寂しいなあと思っていたら、エンドクレジット後に顔写真が写る。
おお、これは!
ということで、次の第6作「ユーロ・ミッション」につながっていくのだね。

 

「グッバイ・クルエル・ワールド」 (2022年) 悪人だらけの大金奪い合い騒動

2022年 127分 日本 
監督:大森立嗣
出演:西島秀俊、 大森南朋、 玉城ティナ、 宮沢氷魚

お洒落サスペンスもの。 ★★★☆

 

ポスターのこの極彩色のケバケバしい感じに、まずは惹かれる。
何か突き抜けたものを見せてくれるのではないかと期待を盛り上げてくれる。

 

ラブホテルの一室ではヤクザの資金洗浄がおこなわれていた。
と、そこを5人組の強盗が襲い、1億円近い大金を奪うことに成功する。
互いに身元も明らかにしていない強盗たちは、金を山分けしてそれぞれの世界に戻っていった。
一方、金を奪われたヤクザの方は大騒ぎとなる。おのれ、金を盗ったのはどこのどいつだっ。

 

冒頭から強盗一味、ヤクザ組織が大勢出てくる。
彼らがそれぞれの事情で右往左往する。文句を言い、怒鳴り散らし、相手を怒る。
喧噪のただなかで物語がすすんでいくようで、慌ただしい。
落ち着きのないけばけばしさ、それがこの映画の雰囲気である。

 

ヤクザ組織が手なずけている現役刑事の蜂谷(大森南朋)が、職権を利用して強盗を突き止めようとする。
もう調べれば調べるほど、情けないほどにクズな奴らばっかり。
ま、そういう蜂谷もクズなのだけれどね。

 

強盗の一員の安西(西島秀俊)は今はまっとうな旅館業をしようとしている。
大人しく、うわべは普通の常識人のように見える。しかし彼は元ヤクザだったのだ。
役どころとしては、西島秀俊が元ヤクザで悪人というのはイメージ的にちょっと無理があったかな(汗)。

 

そこへいくと、彼のところにあらわれた元舎弟を演じた奥野瑛太は凄まじい迫力だった。
行き場を失い、やけくそになっているチンピラで、こんな人物とは絶対にお近づきにはなりたくないとの雰囲気を見事に演じていた。

 

ワル中の悪だったのは、強盗の一員で闇金業者の萩野(斎藤工)。
こいつは悪いよ。他の弱い奴らを踏み台にして使い捨てにして、自分一人が甘い汁を吸おうとする。
だものだから、後半で酷い目に会う。ざまあみろ。

 

この映画の華になる部分を受け持っていたのが、強盗の一員の美流(玉城ティナ)と、強盗現場になったラブホテルの従業員の大輝(宮沢氷魚)。
若い二人は、前半ではおずおずといった雰囲気だったのだが、物語が展開するにつれて腹をくくってくる。
もうこうなりゃ散弾銃ぶっ放しで、気にくわねえ奴はみんなぶっ殺してやるぜ。

 

大金を奪われるヤクザも悪党、奪う強盗一味も悪党、そしてヤクザと手を組んだ刑事も悪党。
悪党だらけの映画だった。

 

(最後の場面のネタバレ)

 

最後、どちらも満身創痍の安西と蜂谷刑事が、防波堤に腰を降ろしてサシで話し込む。
カメラが引いて海の俯瞰を映している画面に一発の銃声が鳴る。
この銃声は、どっちだ?

 

タランティーノ映画、あるいは初期のガイ・リッチー映画に影響を受けている部分があるのだろうか。
もしあるとすれば、その影響の受け方は悪くなかったと思う。

 

 

 

 

「ボーはおそれている」 (2023年) これは悪夢か妄想か

2023年 179分 アメリカ 
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス

幻想譚? ★★★★

 

冒頭からボー(ホアキン・フェニックス)は不安とちょっとした失敗であたふたしている。強迫観念の塊なのだ。
うがい水を飲んでしまったぞ、おとなしく寝ようと思ったのに隣人からうるさいと文句を付けられてしまったぞ、水と一緒に飲むように言われた薬を飲んだのに水道が出ないぞ、恐ろしげな入れ墨男に追いかけられたぞ、部屋の鍵を盗られて荒らされてしまったぞ・・・。

 

と、細かく書いていたら切りがないのだが、怯え顔のホアキンあたふたぶりに観ている者も不安になってくる。
これ、現実に起こっている出来事? それともボーの妄想?
その両者の境界も曖昧なままのため、いよいよ物語は混迷していく。悪夢にどんどん引き込まれていく感じである。

 

そして、つい先ほど電話で話していた母が突然、死んでいると告げられる。えっ?
実家に帰らなけりゃ・・・。
こうしてボーの里帰り旅が始まるのだが、アパートの玄関を出るとそこはもう奇妙な世界に変容していたのだ。

 

大混乱している街中でボーは車にはねられた、親切な(?)医師一家に助けられ、親切に(?)介抱される。
この柔和な笑顔で上品で親切な医師夫婦がとてつもなく気味悪い。
このあたり、上手いなあ。

 

こんな事をしてはいられない、母が亡くなったという実家に一刻も早く帰らなければ・・・。
それなのに旅路の森の中では劇団一行と一緒になり、ボーは芝居を観ていたりもする。
急いでいるのに、なにやかやに時間がとられて刻限に遅れてしまう。気ばかりが焦る。
そう、夢のなかで約束に遅れる、そして焦れば焦るほどさらに遅れてしまう、あの感じである。

 

そしてやっと家に着いてみると、(当然のことのとして)母の葬儀はもう終わっていた。
誰もいない立派な家に呆然と倒れ込むボー。
そして実は生きていた母が現れる。えっ?

 

これまでの母との確執が振りかえさせられる。
アリ・アスター監督はとにかく家族というものにこだわっているようなのだ。

 

最後、ボーは小舟に乗って海原を漂い始める。
ああ、これは黄泉の国へ行くメタファーで終わるのかななどと安易な思いで観ていたら・・・まだまだ終わらないのだ。

 

それから、それからボーは巨大な円形プールのようなところへ引きずり出され、衆人環視のもとに最後の審判にかけられるのだ。
そしてボーの乗った小舟はついに転覆してしまい、ボーは水中に没していく。
なんということだ。

 

エンドクレジット時には転覆したボートがずっと波に揺られている映像が映る。
いつまでも落ち着かない揺れが、いつまでもどこか不安なものをかき立てていた。

 

あとに尾を引く映画だった。怪作!
監督はインタビューで「みんな、この映画を観てどん底気分になればいいな」と言ったとのこと。
確かにね。

 

「PIG ピッグ」 (2021年) 俺の豚を返せっ!

2021年 91分 アメリカ 
監督:マイケル・サルノスキ
出演:ニコラス・ケイジ

風変わりな人間ドラマ。 ★★

 

オレゴンの山奥で、ロブ(ニコラス・ケイジ)は一人で山小屋に住んでいた。
髪はぼうぼう、ひげも伸び放題。世捨て人のような生活で、相棒は地中のトリュフを探してくれる忠実な豚だけ。
掘り起こしたトリュフを毎週木曜日にやって来るトリュフ買い付け人のアミールに売って生計を立てている。交流があるのはこのアミールだけ。

 

画面は一貫して暗く、色彩にも乏しい。閉塞感を感じさせる作りとなっている。
そんな生活の中、ロブは夜中にやってきた侵入者に殴られて、大事なトリュフ豚を盗まれる。
おのれ、俺の豚を返せっ!

 

とここまでの物語設定であれば、この後の展開としては盗まれた豚を取り戻すニコ・ケイのアクション・リベンジが想像できる。
ただの世捨て人だと思っていたら、実はとんでもない戦闘能力があって・・・というお約束の展開、か?。
実際、ポスターの引き文句も「慟哭のリベンジスリラー」と、そういったものをにおわせるものになっている。

 

しかし、今回のニコラス・ケイジは違ったのである。どこまでも陰鬱で耐える人なのである。
隠されていた能力はまったく別のものだった・・・。あれ?

 

ロブはアミールに手伝わせて豚盗人を探そうとする。
怪しげな一室でおこなわれているバイオレンス・ショーで、相手に無抵抗に殴られて資金を稼いだりもする。

 

顔面血だらけのままでロブはブタを盗んだ若者二人を探し当てる。
豚は盗みを依頼してきた人にもう渡してしまったよ。そうか・・・。
さあ、ここでロブは何もしないのである。若者二人を責めることもしない、代償を求めることもしない。
ロブはただその事実経過を受け入れていく。
そう、彼は罪を犯した他者を責めないのである。これではまるで聖者のようではないか・・・。

 

ロブは有名レストランのオーナー・シェフに会いに行ったりする。
彼に再会した人は皆驚く。おお、あなたがどうしてここに?
じつはロブは伝説的な一流の腕を持ったシェフだったのだ。今をときめくそのオーナー・シェフはロブが破門したこともある弟子だったのだ。

 

こうして、顔面の傷をそのままにして、ロブはパンと赤ワインを手にかつての弟子たちを訪ねて歩く。
殴られてもそれを受け入れ、他人の罪を問わない。
こうしたロブの姿にキリストを重ね合わせる解釈の記事もあった。なるほど。そういう見方もできるのか。

 

豚を盗むように画策したのは、トリュフ売買を手広くしているアミールの父だった。
そのアミール父子は母親の自殺未遂をきっかけに親子関係が破綻していたのだが、彼らにロブは思い出の料理を作る。
おお、この味だっ!
俺は一度作った料理は忘れない、誰をどんな風にもてなしたのかも忘れない。
天才料理人て、どれだけすごいんだ。

 

ロブが愛していた豚はどうなったのか。
そして豚の運命を知ったロブはどうしたのか。

 

これはニコラス・ケイジの出演100本目の映画になるとのこと。
そしてこの映画の眼目は、豚盗難のサスペンスではなく、謎めいていたロブの過去が明らかになっていき、その生き様が徐々に浮かび上がってくるというサスペンスだった。

 

いつものニコ・ケイ映画とは違って、私にはあまりにも禁欲的で閉塞感のある作品だった。
最後にロブは、豚はいなくても俺はトリュフを見つけられる、ただあの豚を愛していたんだ、と言う。
・・・そうだったのか。


最後までカタルシスはないままで、陰鬱な気分のままで見終わった作品だった。

「大名倒産」 (2023年) 大借金っ!ええ~っ!

2023年 120分 日本 
監督:前田哲
出演:神木隆之介、 杉咲花、 佐藤浩市

コミカルな時代劇。 ★★☆

 

原作は浅田次郎の同名小説(未読)。
こんな小説も書いていたのだなあ。しかし、文庫本では上下2巻の長さとのこと。
彼のことだから人情話なのだろうが、そんなに長く書くことがあったの?

 

舞台は江戸時代、越後の丹生山藩というところ。
平穏に暮らしていた下級役人の息子の小四郎(神木隆之介)は、ある日突然に丹生山藩主の跡継ぎだと知らされる。ええっ~!
しかも実父の一狐斎(佐藤浩市)は、小四郎に国を任せて隠居してしまう。

 

いきなり藩主への大出世をした小四郎だったが、実は丹生山藩は25万両(今の金額にすれば100億円というところか)の借金を抱えていた。
ええ~っ! 大借金っ! 驚く小四郎。
この借金を何とかしなければ、藩主はその責任をとって切腹だぞ。ええ~っ! そんなあ~。

 

ちょんまげ姿の神木隆之介はそれだけでどこかコミカルな雰囲気だった。
どこから見ても気の弱い善人である。
特攻隊の生き残り役(「ゴジラ-1.0」です)のような凜々しさを封印して、巻きこまれた騒動に右往左往する。
それでも、藩主となったからにはすべては民のために、と頑張る。どこまでも善人である。

 

責任を小四郎に押しつけた父の一狐斎だったが、なあに、借金の返済日に藩が倒産宣言をして踏み倒せばよいだけのことじゃ、という案を持ち出してくる。
でも、そんなことが本当に出来る? 
幕府は怒って、やっぱり藩主は切腹になるんじゃないの?

 

大借金の裏には当然ワルの陰謀が渦巻いている。
キムラ緑子扮する金貸しは花魁のような妖しげな格好をしていて、はじめは誰か判らなかった(苦笑)。
それにこういった筋書きの場合、必ず登場する悪老中に石橋蓮司。もう鉄板のワルぶりである。
そしてもう一人は実の父の一狐斎。佐藤浩市も正義の人から狡がしこい人まで演じて、どれも様になるのだからたいしたもの。

 

家臣の3兄弟をひとりで演じた梶原善(3人の顔のほくろの位置が違う)がバタバタとしかめっ面で笑わせてくれた。
うつけ者の兄役の松山ケンイチも、こんな役も上手いものだなと感心。
小四郎の幼なじみの町娘役に杉咲花。彼女もどんな役どころでも違和感なく演じてみせる。たいしたもの。
(しかし、一介の町娘が藩の中枢部に入り込んで指図をするって、あり得ないんですが・・・ 苦笑)

 

さて物語。小四郎は周りのみんなの協力で藩の財政再建に乗り出す。
参勤交代を経費節約のために野宿でおこなってしまうって、どうよ(笑)。
さらに、大借金の裏の悪事を暴いていく。
やっぱりこんな裏があったのか。

 

こういった筋立ての王道の展開で、意外などんでん返しとかとは無縁だが、安心して観ていられた。
肩の力を抜いて、ほっこりとしたい気分の時にでも鑑賞を。

 

 

「パーフェクト・ケア」 (2020年) 悪女vs.マフィア

2020年 アメリカ 118分 
監督:J・ブレイクソン
出演:ロザムンド・パイク

悪徳後見人のお話。 ★★★

 

マーラ(ロザムンド・パイク)はやり手の法定後見人。
本来の法定後見人の仕事といえば、判断力の衰えた高齢者の代わりにさまざまな手続きをしてあげる崇高なもの。
もうボランティア活動のようなイメージもあるほど。

 

の筈なのだが、マーラは悪徳医師や悪徳介護施設と結託して高齢者たちから資産を搾り取る悪徳後見人だった。
金持ち老人を合法的にケアハウスに入所させてしまい、残された家屋をはじめとして全財産を奪い取ってしまう。
電子煙草をぷかぷか吹かして、ワルだなあ。

 

黒川博行の小説に「後妻業」というのがあった(確か映画化もされたはず 未見)。
あちらは、奥さんに死に別れた資産家老人と色仕掛けで再婚し、遺産を奪い取るというものだった。
善良な資産家老人を食い物にしようとする輩は洋の東西を問わずにいるわけだ。

 

主役のロザムンド・パイクといえば、「ゴーン・ガール」での悪女のイメージがこびりついている。
この映画でもとんでもなく胸くその悪い女を演じている。
あまりに狡がしこくて嫌~な女なので、途中から出てくる敵役のマフィアをつい応援したくなってくるほど。
この女をぎゃふんと言わせてやってくれ。
・・・あれ、主人公はロザムンドの方だよな?

 

さて、マーラの次のターゲットは、身寄りのない孤独な老資産家のジェニファー。
嘘の診断書で裁判所のお墨付きをもらったマーラは、早速ジェニファーを施設に隔離してしまう。
さあ、金目のものも家もみんな売ってしまいましょ。

 

ところが、あれ? いつもと勝手が違うぞ。
なんで切れ者弁護士がジェニファーのことを確かめに来るんだ? しっかり調べて身寄りはないはずなのに、誰が彼女のことを気にしているんだ?
そういえば、ジェニファーの顔つきをよく見ると、ただの老婆の顔じゃないぞ。
ほくそ笑んでいるのあの表情の裏には何があるんだ?

 

実はジェニファーはロシア・マフィアのボスの母親だったのだ。戸籍も巧みに作り替えたものだったのだ。
ボスの命令を受けたマフィアの手下が施設に乗り込んできて、平気で人を殺してでもジェニファーを奪い返そうとする。

 

こりゃ、普通はビビる展開だよねえ。
しかしマーラは、手を組んでいた悪徳医師が警告のように殺されてもひるまないのだよ。
もう憎々しいほどに冷静にマフィアに対抗しようとするのだ。

 

もちろん彼女自身も殺されかける。
必死で逃げ延びるマーラ。頑張るねえ。
そして反撃に出るマーラ。すごいねえ。
恐れを知らないのか。マーラの根性のすわったあの性悪さは潔いほどだった。

 

言ってみれば、強欲な悪徳後見人と家族愛に溢れたマフィアとの争いだった。
どちらも悪人なのだけれども、より悪いのはどちらなんだ?

 

貴方はどちらに肩入れをして観ていましたか?(笑)
ロザムンド・パイク、もうこれで善人の役は絶対に回ってこないと思うよ。