1962年 日本
監督:吉田喜重
出演:岡田茉莉子、 長門裕之
女の情念、男の打算。 ★★★★
50年以上前の作品だが、邦画の良さをしみじみと伝えてくる。
スチール写真はモノクロだが、本編はカラー作品。
この映画は、秋津温泉で数年おきに逢瀬を重ねる男女の思いを描いている。
男が相手に求めるもの、女が相手に求めるもの、それが長い年月の間にもどかしいように絡みついてはほぐれる。
岡田茉莉子の100本目の映画とのことだが、彼女はこのとき未だ29歳。ものすごい勢いで映画に出ていたことになる。
しかも、岡田はこの映画のプロデュースもしており、監督に吉田喜重を指名したのも彼女だったとのこと。
そしてこの映画の翌年に二人は結婚している。
物語は敗戦直前からはじまる。
重い結核にかかっている周作(長門裕之)は、やっとのことで中国山脈の奥にある秋津温泉にやってくる。
死を覚悟して自棄になっていた周作を、旅館の娘、17歳の新子(岡田茉莉子)が介抱する。
舞台になった秋津温泉は、岡山県の奥津温泉のこと。
山間の温泉風景も美しい。
その3年後、周作はふたたび秋津温泉を訪れる。
病は癒えたものの、めざしていた作家への道もままならず、周作はふたたび絶望感にとらわれている。
彼は新子に、一緒に死んでくれ、と頼む。
心中を決心した二人だったが、新子の若さの屈託なさが死を遠ざけてしまう。
そしてまた3年がたち、再び周作が秋津温泉にやってくる。
周作は何度も「またおめおめと秋津か」と呟く。
彼は人生に絶望すると秋津温泉を訪れ、新子を必要とするのだ。
そんな周作を新子は秋津温泉で暮らしながら待っている。
どこまでいっても秋津温泉はそんな場所である。
男は自分勝手に訪ね、女はじっと男が訪ねてくるのを待っている。
こんな情けない男のどこがいいのだとも思ってしまうのだが、恋心は理屈ではないのだな。
2人が出会ってから10年が経つ頃、新子が旅館の女将となっている秋津温泉を、また周作は訪ねる。
すでに妻もいる周作は、上京するために新子に別れを告げに来たのだ。
その夜、二人は初めて男女の関係になる。
しかし、それが二人の別れになることを、新子は覚悟したのだろう。
自分が必要とした時に相手はそこにおらず、相手が必要としてくれた時に自分はそこにいない。
そんな二人の思いの微かなズレが、なんとも切ない。
そして二人が出会ってから17年が過ぎる。
周作が訪れた秋津温泉で、新子はまったく生気を失っていた。
あのときとは逆に、今度は新子が「一緒に死んで欲しい」と周作に頼むのだ。
男はいつしか打算に走り、女はいつまでも情念でしがみつく・・・。
映画の初めの頃の、若さが溢れていて生命が跳ねていたような新子の姿との対比が、見ている者の気持ちを揺り動かす。
上質の日本映画です。