あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「ストレンジャー・ザン・パラダイス」 (1984年)

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1984年 アメリカ 90分
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:ジョン・ルーリー、 リチャード・エドソン、 エスター・バリント

ぬるいロード・ムービー。 ★★★★★

ジム・ジャームッシュの記念すべき初長編作。
映画を作る費用がなくて、撮影現場で余ったフィルムをもらって撮ったとか。
モノクロ画像で、違っているかもしれないが、どうもすべてがワン・シーン・ワン・テイクのように思える。
各画面はブラック・アウトでつながれるのだが、この肩すかしを食らうような間合いが、なんともたまらない。

NYで暮らす遊び人のウィリー(ジョン・ルーリー)は、ハンガリーからやって来た従妹エヴァエスター・バリント)を10日間預かることになる。
狭く汚れた部屋で共同生活をするうちに二人は次第に打ちとけあっていくのだが、それなのに二人ともまるで自分しかいないように生活をしている。
会話をしてはいても、お互いに相手を必要とはしていないのだろう。

とにかくぬるい、覇気がない、気まずい。
そんなジャームッシュの映画を面白いとみるか、退屈でつまらないと感じるか、好き嫌いは大きく分かれると思う。
一般的な意味合いで<面白い>という映画では決してない。
映画全体に漂うぬるま湯的な感触を心地よいと感じるかどうかだろう。

登場人物は皆つまらなさそうに人生を生きている。
退屈していて、思いつきで何かをするために他人と触れあう。
だから他人との触れあいはぎごちない。

ジャームッシュの特異な点は、そんな少しとまどったような他人とのつき合いに嫌みなところを感じさせないことだ。
本質的には優しいのだろう、自分に正直なだけなのだろう。
(これは後の「コーヒーとシガレッツ」でのぎごちない会話でも端的だ。)

1年後に、ウイリーと友人のエディは車を延々と走らせて、雪のクリーブランドまでエヴァに会いに行く。再会してつかの間だけ喜び合う三人。
それから三人は<パラダイス>を求めてフロリダへの旅をするのだが、着いたフロリダには人気のない寂れた海岸があるばかりだ。
これが三人の<パラダイス>だったのだ。

クリーブランドで三人が出かけた寒風が吹きつける湖の場面は印象的だ。
三人が歩く人気のないフロリダの海岸での場面もいい。
そこには、なんにもないのだ、誰もいないのだ。

最後に三人はバラバラになってしまう。
ウイリーは誰もいないハンガリーへ行く飛行機に乗ってしまうし、エディはひとり車に残される、エヴァは誰も戻ってくるはずのないモーテルの部屋で所在なげに寝そべる。
寂しいから他人を求めているのに、その気持ちの中には自分しかいないものだから、結局のところ、みんな離ればなれになるしかなかったのだろう。

人が緩やかに生きていくときに感じる周囲との違和感のようなもの、そんなものをジャームッシュの作品は伝えてくる。

ジャームッシュはヴィム・ヴェンダーズの助監督もしていたことがあり、ヴェンダースと同様に小津安二郎を尊敬しているとのこと。
そういわれてみると、三人に共通する雰囲気を感じる。
ウイリーが賭ける競馬の馬の名前に「東京物語」というのがあったし・・・。

とても体調が悪く、アクションものやサスペンスものを観る元気もないときに、20年ぶりぐらいにこの映画を観た。
この映画は弱った体と気力にやさしかった。
この映画は、ぐったりとした心で観ましょう。