あきりんの映画生活

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「月曜日に乾杯!」 (2002年)

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2002年 フランス 127分
監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ジャック・ビドウ

日常生活と放浪の日々を対比させたフランス映画。 ★★★

前半はフランスの片田舎で暮らす人々の生活が淡々と描かれる。
主人公のヴァンサンは工場の溶接工として働いている。毎朝、定時にいつものように煙草も吸えない工場へ出かけている。家に帰れば二人の子どもは自分の趣味に夢中で父親を相手にしてくれず、奥さんも雑用を言いつけるばかり。

同じ村で暮らす人々も丁寧に描かれる。どこか少しだけ変わっている人々だ。
なぜかトラクターで出勤する隣のご主人、フランス人女性に恋した黒人、手紙を盗み読みする郵便屋さん、望遠鏡でのぞき見をする牧師さん、などなど。
群像劇のような感じで描かれるのだが、とても人間味があふれているのは、描き方に愛情があるからだろう。

やがてヴァンサンはふいに工場をさぼって、離れて暮らしている父親を訪ねる。
この父親も奇妙な人物で、瀕死の床についているといって叔母さんたちが集まっているのだが、ヴァンサンと会うと急に元気になってしまって、二人で乾杯したり旅立ちのお金をくれたりする。

こうしてヴァンサンは列車に乗りこみ、ヴェニスへの旅が始まる。
運河の街でヴァンサンは幾人もの気のよい友人と知り合うことになる。そして一緒にワインを飲み、ボートで運河を遡り、バーベキューに出かけたりする。
ヴェニスの風景がおだやかで美しい。

ヴァンサンが休日を楽しんだヴェニスの友人たちも、夜が明ければ日々の労働の生活を抱えている。見方を変えれば、休日も労働の日々も裏表の人生の一部だともいえるのだろう。
しかし、この映画はそんなことをしかめっ面をして論じているわけではない。
細かいところまでていねいにくっきりと描かれているのに、全体をみると、非常に茫洋とした流れの作品なのだ。

登場してくる人々は、みな、邪心がなく、誠実に自分を生きている。たとえ、その行動が少し変わっているとしても、だ。
だから、観ている私も誠実にその人たちの生活を感じることになる。

長い旅を終えて戻ってきたヴァンサンを、家族はみな何事もなかったように迎える。ヴァンサンが通勤に使っていた小型自動車は誇りをかぶっていたのだが、奥さんがきれいに洗ってくれる。
黒人はめでたく思いを寄せていた女性と結婚式をあげることができたし、最後の方でヴァンサンの息子が彼女と一緒にハングライダーから眺める風景は、これからの人生の広がりを象徴しているようであった。

筋だけを追うと、なんのことか、よくわからないのだが、人々の人生がていねいに描かれており、ほろ苦さと同時に、人生の優しさみたいなものを感じさせてくれる作品である。

ベルリン映画祭の銀熊賞(監督賞)、国際批評家連盟賞を受賞しています。