あきりんの映画生活

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「太陽がいっぱい」 (1960年)

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1960年 フランス
監督:ルネ・クレマン
出演:アラン・ドロン、 モーリス・ロネ、 マリー・ラフォレ

地中海の美しい風景を背景にした青年の犯罪もの。 ★★★★★

貧しい青年のトム(アラン・ドロン)が、富豪の友人フィリップ(モーリス・ロネ)を殺して、彼になりすまして大金を横領しようとする。そして、フィリップの恋人であるマルジュ(マリー・ラフォレ)も手に入れようとする。

アラン・ドロン出世作として、あまりにも有名な作品。
ニーノ・ロータのあの主題曲は、トムがマルジュに会いに港へやってくるシーンで何度か流れる。地中海の明るい陽射しが映えて、曲が流れるたびに、ああ、と思ってしまう。

トムは貧しさ故の卑屈さをかかえている。
フィリップの服をこっそりと着ているところを見つかる場面、魚料理を食べる際のナイフの使い方を馬鹿にされる場面など、トムの鬱屈した気持ちが積み重なっていくのがわかる。
それが後半の大胆なトムの行動を支えるものとなっている。
そんなトムの変化を、アラン・ドロンがリリシズムにあふれて演じている。

ヨットの上でフィリップをナイフで刺した瞬間に、画面は一瞬ヨットの遠景となる。
そして激しい風にあおられる帆布の音、波しぶきをあげながら傾くヨット。それらが大変な行動にでてしまったトムの心の高ぶりをあらわしていた。

最後近く、トムがマルジュを見つめる場面で眼差しがアップされる。
アラン・ドロンのその横顔の美しさ。そしてマルジュの顔もアップとなる。マリー・ラフォレの映画はこの作品しか知らないのだが、神秘的ともいえる不思議な美しさだった。

最後、オープンテラスのチェアに身を預けるトムに、カフェのおばさんが、気分が悪いのか、と訊ね、いや、太陽がいっぱいなだけだ、と答える有名なシーン。
フランス語が全くわからないので原文の台詞を確かめようがないのだが、この訳は素晴らしいと思う。

罪が発覚したとは知らないトムの背後に刑事が迫ってくる、画面はヨットの遠景となって映画が終わる。
そのヨットも、あの殺人がおこなわれたような豪華ヨットではなく、漁業に使われているようなヨットである。トムの虚偽の世界が終焉を告げて、元の日常世界が横たわっているようであった。

なんど観ても、そのたびに佳いなあと思ってしまう作品。

同じ原作を映画化したものに主人公の名前を採った「リプリー」がある。
原作にはより忠実と言われているが、マット・ディモンがアラン・ドロンとは全く異なる人物像を演じている。