あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです(苦笑)。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。

「ラスト、コーション」 (2007年)

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2007年 中国 158分
監督:アン・リー
出演:トニー・レオン、 タン・ウェイ

戦時下中国での屈折した愛。 ★★★★☆

見終わったあとにしばらくは放心してしまうような、そんな重い感慨を残す映画であった。

(ストーリーを知ったからといってこの映画の価値が損なわれることはないと思うので、以下には結末にまで触れています。ご注意下さい。)

日本占領下の傀儡政権時代の中国が舞台。
ほのかな思いを寄せる人がいたために、チアチー(タン・ウェイ)は抗日運動をスローガンにした学生芝居に参加する。
やがて、日本軍のために働くイー(トニ・レオン)を暗殺するために、チアチーは上流夫人を装ってイーに近づく。

イーを誘惑する性技を磨くために、処女だったチアチーが仲間の一人と愛のない行為をくりかえすくだりもある。
彼女はそこまでやるのか、仲間も彼女にそこまでやらせるのか、という思いであった。
なにが彼女をそこまで突き動かしたのだろうか。

政治の季節のただ中にいる者にしか分からない熱病のようなものだったのだろうか。
タン・ウェイの切実な演技は、悲劇的な運命をも自ら引き受けていくヒロインを等身大に感じさせていた。

計画が挫折して、チアチーは仲間とも別れて普通の生活に戻る。
中国映画では、上流社会の生活と庶民の生活に大きな違いがあることをまざまざと見せつけることがよくある。
この映画でも、素顔でみすぼらしい衣服のチアチーを映すことによって、上流社会の生活が虚飾に彩られていたものであることをよくあらわしていた。
だから、そこでの性愛行為も虚飾のものだったのだろう。

やがてチアチーは再び虚飾の身となってイーに接近する。
タイトルにある「ラスト」は官能的欲望という意味あい。
評判となった過激な性行為場面であるが、たしかに肉体表現の限りをつくしている感があり、圧倒されるが、嫌らしい感じは全く受けなかった。
逆に、相手の身体をこれだけ真剣に求めるという行為の裏にある悲しみのようなものを感じた。

偽りの性愛をおこなっていたはずのチアチー。
彼女が、もう離れられない男女を象徴化した「針と糸」を唄って踊る場面は、どこまでが偽りで、どこからが真実か、自分でも危うくなっている心情をあらわしていた。

微妙にずれながら性愛をおこなっていた二人の思いが、やがてぴったりと合わさったときに、終焉が訪れる。
禁断の愛であったからには、相手が死ぬか、自分が死ぬか、そのいずれかしか道としてはないことは判っていた。
チアチーは自らの死を選んだのだ。

暗殺されようとしていたイーを逃がしたあと、チアチーは輪タクに乗る。
自転車のハンドルにつけられた小さな風車がぐるぐると回る。
一瞬にして大きく展開した人生が、まるで嵐のなかではげしくざわめいているようだった。

輪タクに乗ったチアチーはあらかじめ渡されていた自害用の毒薬を取り出すが、なぜか服用はしなかった。
おそらく、チアチーは、囚われのみとなってもよいから、生きている間にもう一度イーと会いたいと願ったのではないだろうか。

しかし、イーは捕らえたチアチーを尋問しようとはしなかった。
二人は二度と会うことはなかったのである。
処刑されようとしているチアチーの前には、これから自分が落ちていく採石場の暗い闇が広がっている。
そのころ、チアチーが暮らしていた部屋でイーは目に涙を浮かべる。
10時までに処刑するように、という命令をイーは下しており、時計がゆっくりとそのときを告げている。

2時間半を越える長尺ものであるが、惹き込まれて見終わった。
二人の、お互いへの思いが切なく残る映画であった。