1960年 フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:シャルル・アズナブール、 マリー・デュボワ
ヌーベル・バーグのサスペンスもの。 ★★★
モノクロで撮られたF・トリュフォーの長編2作目。
タイトルは、西部劇の時代の酒場で貼られていた「演奏しているピアニストを撃たないで下さい」という張り紙の文句をもじっているとのこと。なんだ、そりゃ?
ギャングとのいざこざを起こした兄が逃げてきたことから、場末のカフェのピアノ弾きのシャルリ(シャルル・アズナブール)もギャングに追われることになる。
シャルリは実は天才ピアニストだったのだが、ある事件によって妻が不幸な転帰をとったことから、今は名前も変えてひっそりと暮らしていたのだ。
冒頭で、追われていた男は街灯にぶつかり昏倒する。そこを助けてくれた通行人と、とりとめもなく結婚観をいきなり話しはじめたりする。
このように、いたるところでまったく唐突なつなぎの場面が、それほど深い意味もないままにはさみこまれる。
というか、そういった物語全体から浮き上がってしまっているような場面が容赦なくちりばめられていて、それが映画全体の雰囲気ともなっている。
シャルリと同じカフェで働いていたレナ(マリー・デュボワ)は、彼を立ち直らせようとするのだが、二人ともギャングに拉致されてしまったり、レナに横恋慕していたカフェの店長との争いから殺人事件も起きてしまう。
物語はあれよあれよと展開していく。
まとまりは非常に悪い。
と言うか、さまざまな要素が脈絡なしにあらわれては消えていくのだ。雰囲気もめまぐるしく変わる。
サスペンスかと思っていたら、コミカルになったり、シャルリの苦い過去の悲劇であったり、喜劇調になってみたり。
拉致された二人は、ギャングたちとの車の中で、女をめぐる雑談を明るく楽しんだりもする。
トリュフォーはヒッチコックの信奉者であったわけだが、一方ではまともなサスペンス映画を否定しようともしているようだ。
乳房を露わにした女性に、シャルリは「映画ではこうするんだぜ」と、毛布を掛けたりする。
映画で、これまでの映画を否定しようとしているわけだ。
物語は、雪山での悲しい結末を迎える。
かっては妻を失い、今度は恋人を失う。そしてシャルリは失意のもとに、再びカフェのピアノ弾きに戻るのである。
しかし、そのような物語はあくまでも映画を撮るために利用されているだけで、映画を撮るということ自体がこの映画の目的であったように感じられる。
刹那的にいろいろな事件が起こり、会話は無意味なとってつけたようなもの。そのちぐはぐな感じが独特である。
それらが即興性を重視していたヌーベル・バーグらしいところなのだろう。
映画全体の完成度よりも、映画を撮っていくときの感性を重要視しており、そのあたりは今観ても充分に面白い。
それにしても、トリュフォーの映画に使われる音楽はいつも良い。
軽快で陽気なようで、どこかに憂いを含んでいる。