2006年 フランス 106分
監督:ダニエル・トンプソン
出演」セシル・ドゥ・フランス
パリを舞台にした群像劇。 ★★★
パリ8区のモンテーニュ通りのカフェで、田舎からやって来たばかりのジェシカ(セシル・ドゥ・フランス)が働きはじめる。
このカフェの近くには、演奏会場があり、芝居の舞台があり、有名なオークション会場もある。
数日後には、そのそれぞれで公演や催し物がひらかれることになっている。
で、それらの関係者がカフェには訪れてきて、ジェシカとの触れあいもはじまる。
勝手な思いなのだが、パリはやはりお洒落な街に見える。
そこに繰り広げられる人生模様も、当人たちには深刻なのだろうけれども、観ている者にはやはりどこかお洒落っぽい、粋な悩みのように思える。
(というか、そんな風にみえるように監督も計算しているのだろうけれど)。
コンサートのリハーサルに追われている天才ピアニストは、その世間的な評価とはうらはらに満たされない思いを抱えている。
彼は愛する妻と二人で人知れぬ場所でひっそりと暮らしたいのだ。
また、一代で財を成して、その財力で集めた美術コレクションをすべてオークションにかけようとしている初老の資産家もいる。
妻に先立たれ、息子との間にもぎくしゃくとしたものがあり、自らも抗癌剤治療を受けている身なのだ。
TVの昼ドラマで人気の女優は、別れた夫が演出する舞台の初日を目前にして苛立っている。自分が本当に演じたいものは、こんなものではないと・・・。
劇場の係員を定年退職する女性は、歌手になる夢が果たせなかったのだが、いつもヘッドホンでシャンソンを聴いている。
登場人物たちの悩みや人生は、すべて芸術に関わっている。
どろどろとした人間関係などではないところが、パリでの物語らしさをいっそう際立たせている。
やはり、お洒落っぽい。
拗ねている女優が映画での役を欲しがる場面で、どうせ採用されのはアジャーニか、ビノシュよ。あるいはベルッチね、と、実在の女優の名前を挙げているところが面白かった。
なるほど、フランスではそのあたりが一流どころの評価なんだね。
主役のセシル・ドゥ・フランスは初めて観た女優さんだった。ずばぬけての美人とは違うのだが、屈託のない笑顔が魅力的である。
彼女の周りの人々も、その屈託のなさに惹かれていくようだ。
そして、人生のひとときをすれ違いながら、何か心に触れあうものを感じるのだろう。
オークションに出品される「接吻」と題した彫刻を見て、ジェシカが”恋をしたくなるわ”と感想を言う。
すると、初老の資産家は”作家が喜ぶよ”と答える。
なんの芸術知識もないジェシカの感想が、その彫刻の本質をみていたのだろう。
天才ピアニストに、クラシックのコンサートなんかに行ったことはない、とジェシカは言う。
すると、彼は、”じゃあ、これは知ってるかい?”とキラキラ星を弾く。そしてこれはモーツァルトが作ったんだ、と教えてくれる。
コンサートと、お芝居の初日と、オークションの日がやってくる。定年退職の日の人もいる。
それぞれの人のそれぞれの人生が、一つの節目を迎える。
映画の舞台になるカフェ「バー・デ・テアトル」は実在するお店だとのこと。
監督は、ジャン・レノとジュリエット・ビノシュが共演した「シェフと素顔と、おいしい時間」のダニエル・ハンプトン。
軽い雰囲気の人生模様を描くのが上手い。
決して大作とか問題作といったものではないのだが、気持ちよく観ることができる作品だった。