2009年 フランス 124分
監督:ラデュ・ミヘイレアニュ
出演:アクセイ・グシュコフ、 メラニ・ロラン
ある楽団をめぐるおとぎ話。 ★★★☆
ロシア、ボリショイ劇場の清掃員の中年男アンドレイ(アクセイ・グシュコフ)は、30年前まで天才指揮者と言われていた人物だった。
しかし、共産主義国家の弾圧からユダヤ系演奏家を守ろうとして、彼は解雇されてしまう。
そんな彼が、落ちぶれてしまったかつての仲間を集めて偽のオーケストラを結成し、ボリショイ管弦楽団を名乗ってパリ公演をしようと画策する。
物語には政治的な暗い背景があるのだが、映画自体はコメディ・タッチで軽くすすんでいく。
アンドレイは、今は救急車の運転手や蚤の市業者、ポルノ映画の効果音担当などをしているかっての楽団仲間を集める。
フランスへ渡るためのパスポートも入手する必要があるし、肝心の楽器だって揃える必要がある。
ドタバタ、ジタバタと、騒動のように準備がおこなわれていく。
さて、問題はソリストなのだが、アンドレイは天才バイオリニストのアンヌ・マリー・ジャケ(メラニ・ロラン)を指名する。
そしてチャイコフスキーのバイオリン協奏曲を演目に選ぶ。
アンドレイには、30年前にユダヤ人だったバイオリン奏者レアを守ってやれなかったという悔恨がある。
なんとかして、レアと一緒にめざしたバイオリン協奏曲の究極のハーモニーをもう一度演奏したいという念願がある。
そんなアンドレイの思いを聞かされたジャケは、私はレアの代わりじゃない、と怒る。
しかし、アンドレイには、ジャケにバイオリンを弾いてもらわなければならない理由があったのだ。
私(あきりん)は幼い頃にバイオリンを習ったことがある。
バイオリンの練習とはあっさりと3年で縁を切ったが、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲はその頃からの愛聴曲になっている。
スラブ風の哀調と激しさが渾然となっている作品である。
この映画のクライマックスでは、そのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲が12分間にわたって流れる。
ぶっつけ本番のコンサートだし、練習もしなかった楽団員ばかりだから、はじめは失笑を誘うような酷い演奏である。
しかし、やがてジャケの弾くバイオリンがオーケストラの上にのってくると、それに触発されたようにオーケストラの演奏も素晴らしいものに変わっていく。
楽団員たちは、レアのために集まれ!という合い言葉で再び集まったのだ。
ジャケの演奏は、そのレアの演奏を彷彿とさせるものだったのだ。
音合わせもしていないのに、そんなに上手くいくわけはないのだが、これはおとぎ話だから、それでいいのだ。
感動的である。
バイオリン協奏曲のうねりに合わせるように、過去の出来事がフラッシュバックされる。感動的である。
後日談までちゃっかりと挿入してくる。嬉しくなってくる。
見終わったあとに、良い映画を観た!と思える作品。
ちゃちっぽいコメディ風の前半だったのに、終わってみれば感動の作品でした。