2003年 ドイツ 121分
監督:ヴォルフガング・ベッカー
出演:ダニエル・ブリュール、 カトリーン・ザース
優しい嘘の人間ドラマ。 ★★★
東西ドイツを隔てていたベルリンの壁が壊されたのが1989年。
この映画はその時期を挟んでの東ドイツのある家族の物語である。
時代が大きく変貌して、その波に呑み込まれた人々は大変だったと思うのだが、この映画のよい点は、その人々の描き方が深刻ではないところ。
青年アレックス(ダニエル・ブリュール)の父は、家族を捨てて10年前に西側に亡命してしまった。
母クリスティアーネ(カトリーン・ザース)は、その反動から勤勉な愛国者となり、すべてを国家のために捧げるようになってしまった。
そんなある日、母は心臓発作を起こして昏睡状態に陥ってしまう。
その間にベルリンの壁は崩壊する。
東ドイツも資本主義国家となり、世界が一転した8ヶ月後に母の意識が奇跡的にもどる。
しかし、アレックスと姉は、母に精神的なショックが加わると命取りになると医師から告げられてしまう。
国家につくすことが生きがいだった母が、昏睡中に東西ドイツが統一されたことを知ったら・・・。この変わってしまった世界をみたら・・・。
意識を取り戻した母が再びショックを受けないように、アレックスは消滅前の東ドイツを必死に見せ続ける。何も変わっていないんだと。
マクドナルドに勤めだした姉にも旧東ドイツ時代のダサい服を着るように言い、かって東ドイツで売られていた食料品を集めては母に食べさせる。
そんな息子の奮闘を、どこかユーモラスに描いている。いじらしい。
母が部屋の窓からコカコーラの大きな垂れ幕を見つけてしまう場面がある。
これは困ったぞ。
少し元気になった母が一人で街へ出て変貌した街の様子を見てしまう場面がある。
これは困ったぞ。
それでもなお、アレックスは最後まで母に嘘を突き通そうとする。
しかし、母もまた大きな嘘をついていたのだ。
西ドイツに行ったまま帰らなかった父の家を、アレックスが訪ねる場面がある。
今は別の家庭を持ち、まったく新しい生活をしている父。
アレックスは異母姉妹と会い、そして父と再会する。
ああ、人は、長い間思い続けていた人とはこんな風に再会するものなのか、と思わせて、秀逸な場面だった。
アレックスが母に嘘をついたことが、果たして正しいことだったのかどうか、それは判らない。
しかしそこにあったのは母に対する愛情以外の何ものでもなかった。そのことだけは間違いがない。
そのことが観ている者の気持ちを優しくしてくれる。
堅苦しい作品ではありません。
愛するが故についた嘘の物語です。
ベルリン国際映画祭で最優秀ヨーロッパ映画賞受賞しています。