1972年 フランス 128分
監督:ルネ・クレマン
出演:ジャン・ルイ・トランティニヤン、 ロバート・ライアン、 レア・マッサリ
フレンチ・ノワールもの。 ★★★
監督は「太陽がいっぱい」のルネ・クレマンだし、音楽は「男と女」「白い恋人たち」のフランシス・レイ。
おまけに、脚本は「さらば友よ」や「雨の訪問者」でお気に入りのセバスチャン・ジャブリゾ。
とくれば、これはあの頃の雰囲気がただようフレンチ・ノワールものとなる。
期待は裏切られない(ただし、何故か舞台はカナダである)。
死傷者を出す事故を起こしたために逃亡生活をしているトニー(ジャン・ルイ・トランティニヤン)は、ひょんなことから小島に隠れ住むギャング団に捕らえられ、共同生活をおくることになる。彼らはある大胆な誘拐計画を立てていた。
という設定なのだが、この映画の面白さは、トニーが一緒に暮らすことになったギャング団が持っている雰囲気。
初老のチャーリー(ロバート・ライアン)を頭として、他のメンバーが兄弟姉妹のような雰囲気、親密さで、まるで家族のようなのだ。
知的な兄風の奴、少し頭が弱くて力自慢の弟風の奴、男を渡り歩いた料理上手な姉風の奴、狩猟が得意な妹風の奴。
そこにまぎれ込んできた余所者のトニーは、警戒されたりしながらも次第に仲間の一員となっていく。そして誘拐計画にも手を貸すこととなる。
そのやりとり、過程が面白い。
トランティニヤンは、どこか陰をひきずっている雰囲気で好い。
そしてギャング団の一員、シュガー(レア・マッサリ、どうも彼女はチャーリーの愛人らしいのだが)ともいい仲になってしまう。
しかし、この映画でいぶし銀の輝きを放っているのは、なんと言ってもチャーリー役のロバート・ライアンである。
老獪でありながらも、一方で子どものような純な心を持っているところが、とてもただの悪人ではない魅力となっている。
ジャブリゾが脚本なので、例によってちょっとした賭ゲームが効果的に出てくる。
「さらば友よ」では、いっぱいにお酒を満たしたグラスに、こぼさずにコインを入れられるか、という賭だった。
「雨の訪問者」では、後ろ向きにガラス窓にクルミを投げてガラスが割れないか、というものだった。
この映画では、真っ直ぐに立てた煙草の上にさらに煙草をたてられるか、という賭をする。
チャーリーがムキになって挑戦するところが微笑ましい。
始めに書くべきだったのかもしれないが、映画の冒頭に、一人の少年が友達を求めて子ども達のグループに近づく場面が映される。
そしてこぼれた色とりどりのビー玉が階段を転がり落ちる。
そこにルイス・キャロルの言葉が重なる。「愛しきものよ、ぼくたちは寝る時間が来たのに嫌がっている年老いた子どもにすぎない」
脚本のジャブリゾはキャロルの「鏡の国のアリス」がとにかく好きだったらしい。
実は、このちょっと不思議な、ノスタルジックな挿入場面が映画全体の雰囲気をあらわしていた。
ゆったりとしたテンポでギャング団との生活が描かれたあとの後半は、サスペンス・アクション風の展開となる。
誘拐計画がおこなわれ、誘拐を依頼してきた集団との争いがあり、さらには包囲してきた警官隊との絶望的な銃撃戦となる。
そして、急展開のピークにトニーとチャーリーの男の美学が描かれる。!!!
チャーリー:「なぜ戻ってきた?」
トニー:「ビー玉のためさ」
ある映画評でこの映画を「ロマンチックすぎるギャング映画」と評していた。
なかなか上手く言い当てている。
ちなみに、ロバート・ライアンはこの映画が制作された年に亡くなっている。遺作である。