あきりんの映画生活

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「太陽に灼かれて」 (1994年)

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1994年 ソ連 137分
監督:ニキータ・ハミルコフ
出演:ニキータ・ハミルコフ、 ナージャ・ハミルコフ、 

政治体制にゆがめられた愛の物語。 ★★★☆

すごく重い映画を観てしまったという感じで、ぐったりと疲れた。
ロシア体制下での恋人愛、夫婦愛、父娘愛の物語。
個人の自由な感情が、政治によって変えられてしまうやりきれなさがある。

時代は1930年代のスターリン粛清の嵐が吹き荒れていた頃。
ロシア革命の英雄コトフ大佐 (ニキータ・ハミルコフ) には若く美しい妻マルーシャと一人娘のナージャナージャ・ハミルコフ) がいた。

夏、美しい田園地帯での、家族や親戚、知人たちとのおだやかな生活。
そこへ久しぶりに村出身のミーチャが帰ってくる。
みんなの前で陽気におどけてみせるミーチャ。
しかし、実はミーチャはマルーシャのかっての恋人だったのだ。
そして、ミーチャがコトフ大佐によってマルーシャとの仲を引き裂かれ、国外に派遣させられたことが分かってくる。
(マルーシャの手首にはリストカットの跡さえあるのだ。)

のどかな川遊びの場面がある。
素足のコトフ大佐の足元には割れた瓶が落ちていたのだが、それに気づいたミーチャは教えない。彼のコトフへの悪意がさりげなく描かれている。
不穏なものが忍び寄ってきている。

コトフ大佐とナージャは幸福な様子でボート遊びをし、ミーチャの弾くピアノでみんなが踊る。
一方で、川原では毒ガス避難訓練がおこなわれたりもするのだ。
平和そうに見えている生活のすぐ裏側では政治的な情勢が問答無用に存在している。
このあたりの、平和・和やかさと、不穏・得体の知れない不気味さの、対照的な描写が独特の印象深いものになっている。

(以下、後半のあらすじに触れています)

革命の英雄であるコトフ大佐、そして彼に恋人との仲を裂かれたミーチャ。
時代によって立場は変わり、実は秘密警察になっていたミーチャは、コトフ大佐をスパイ容疑のかかった裏切り者として逮捕しにあらわれたのだ。

事態を察知したコトフ大佐。
そんなこととは知らずにサッカーに興じる人々の明るさと、相対しているコトフ大佐とミーチャの暗く澱んだ緊張感。
光りと陰、明と暗、それらの対比が見事に伝わってくる。

最後、車で連行されるコトフ大佐を何も知らないナージャが無邪気に見送る。
やがて小麦畑の中に浮かび上がる巨大なスターリンの肖像の気球。

主役のコトフ大佐を演じるのは監督のニキータ・ハミルコフ。
オマー・シャリフを思わせて、非情に格好良い。
無邪気な可愛らしさがなんとも言いようがないナージャ役は、ハミルコフ監督の実の娘だとのこと。

カンヌ映画祭でグランプリを、アカデミー外国映画賞もとっています。
続編の 「戦火のナージャ」 はその後の成長したナージャを描いているとのこと。観なくては。