あきりんの映画生活

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「その土曜日、7時58分」 (2007年)

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2007年 アメリカ 117分
監督:シドニー・ルメット
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、 イーサン・ホーク、 マリサ・トメイ、 アルバート・フィニー

心理サスペンス。 ★★★☆

どこにも救いがないような状況に追い込まれていく家族を描く。
流石にシドニー・ルメット、重厚なドラマ作りの名人芸である。

別れた妻に娘の養育費も払えないハンク(イーサン・ホーク)に、兄のアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)がある強盗計画を持ちかける。
会計士としてうわべは裕福そうに見えるアンディも使い込みをしており、間もなく行われる監査までに穴埋めをしておかなければならなかったのだ。
そして、狙うのはなんと彼らの両親が営む宝石店。

映画では、土曜7時58分に起きる強盗事件を先ず見せる。
それから、それに至る経過をそれぞれの人物の立場・視点から、同じシーンを繰り返して見せる。
通常であればダレテしまうところだが、その場面の主役と脇役が立場を入れ替えるように映されるので、それぞれの人物の心情が伝わってきて、とても面白い。
ひとつの会話なのに、それぞれの立場から意志が食い違っていくところが面白いのだ。

誰も傷つけずに、両親の被害も保険からおりて、すべてがうまくいくはずだったのに、予想外の展開となっていく。
店にはいないはずの母親がいて、銃は使わないはずだったのに発砲されてしまい・・・。
もう事態は雪だるま的に悪くなっていく一方となる。

と、こうくれば思い出すのは、ドジな主役たちのもくろみがどんどんと悪くなっていくコーエン兄弟の映画。
ただ、あちらと決定的に違うのは、ユーモア感覚の有無。
コーエン兄弟の作品にはブラックなユーモアがあって、観ている者が居心地の悪い笑いに誘われる。
それに引き替え、ルメット監督はひたすらに真面目。
滑稽なほどに状況が悪化していくのを、冷ややかに見つめる。

兄も、弟も、兄嫁(マリサ・トメイ)も、そして兄弟の父親(アルバート・フィニー)も、ああ、どうすればいいんだ?
これは、どこにも救いがない。ホント、どうすればいいんだ?

繊細な心情描写は見事で、4人の出演者がそれぞれに好い。
特に長男を演じたフィリップ・シーモアの苦悩する様が、まことにじわりと観ているものに迫ってくる。
イーサン・ホークの腺病質なダメ男ぶりも、それに負けず劣らず。
マリサ・トメイは、ちょっと別の意味で奮闘(この意味は映画の冒頭で、いきなり分かります。笑)。

この映画の原題は「死が悪魔に知られる前に(天国に行けますように)」。
悪事をした人のお祈りの言葉だねえ、これって。
意味深長で、好いタイトル。しかし、邦題にするにはちょっと哲学的すぎたか。