2003年 カナダ 99分
監督:ドゥニ・アルカン
死を見つめたヒューマン・ドラマ。 ★★★
酒好き、女好きで、やりたい放題の人生を送ってきた元教授の父親。
ロンドンでやり手の証券マンになっていた(真面目な)息子は、そんな父親とは反目しあっていたのだが、父が末期癌になったとの知らせで、カナダに帰国する。
それなのに父親は息子に皮肉を言い、悪態をつく。
せっかく息子が帰国してくれたというのに、どうしようもない、憎たらしい親父だな。
知識人で皮肉屋で放蕩男である父と、資本主義社会での成功者である息子。
生き方が根本的に相容れない。
芸術肌の父は大金持ちになっている息子をどこかで軽んじているし、息子は社会的に危うい生き方をしてきた父を反面教師として今に至ったのだろう。
それでも息子は余命の限られた父のために、出来るかぎりのことをしようとする。
赤字経営の病院と掛け合って、財力にものを言わせて病室を父のために居心地のいい部屋に改造してしまう。
古い父の友人や愛人たち(!)に連絡をして、病室へ集まってもらう。
癌の痛みを取り除くために、非合法なヘロインまで入手してくる。
なんという孝行息子だ。
見ようによっては、息子の行為は金持ちがその財力にものを言わせている行為としかとれない。
そのために、心情的について行きにくいところもある。
お金がなければ、そんなことをしてやりたくても出来ないよ、と思ってしまうのである。
しかし、この映画の言いたいことはそんな金銭的な条件は無視したところにある。
誰だって死ぬのは怖い。
享楽的に人生を謳歌してきた父も、死ぬのは怖い。そんな彼が不安な気持ちから弱音を吐露する。
「死んでいく意味がわからなければ死ねない」
そんな父を、息子はありったけのことで受け止めてやろうとしたのである。
(以下、ネタバレ)
最後は、大量の麻薬投与による眠るような安楽死。
家族や友人たちひとりひとりと別れの言葉を交わし、それから痛みから解放されて眠ったまま死んでいく。
うらやましい最期である。
現在の日本では望むべくもないが、私もきちんと意識のある間に、みんなにさようならと言って、それから眠ったまま死にたい。
エンディングにはフランソワーズ・アルディの歌が流れます。
アカデミー外国映画賞を受賞しています。他にもセザール賞で作品賞、監督賞、脚本賞を受賞しているそうです。