あきりんの映画生活

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「バグダッド・カフェ」 (1987年)

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1987年 アメリカ 108分
監督:パーシー・アドロン
出演:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、 CCH・パウンダー

砂漠のおとぎ話。 ★★★★

これは少し不思議な映画。
といっても、内容が不思議なのではなく。作品の持つ魅力が不思議なのである。
美人なんて一人も出てこない。映画の舞台は風と砂埃だらけの荒野のモーテルだけ。
それなのに、ああ、好い映画だったなあと思ってしまう。

舞台となるのは”バグダッド・カフェ”という、モハヴェ砂漠の外れにある寂れたモーテル。
(モハヴェ砂漠というのは、ラスベガスとロサンゼルスの間にあり、結構いろいろな映画に登場する。ディープなところでは、アンジェリーナ・ジョリーの初期の作品「リアル・ブラッド」の舞台にもなっている。この映画の原題は「モハヴェ砂漠の月」だった。)

ここの女主人ブレンダ(CCH・パウンダー)はいつも腹を立てている。
役に立たないふがいない夫、自分勝手な息子や娘。なんで私一人がこんなにきりきりと働いていなくはなんないのさ!
そこへ、新婚旅行に来たのに一人砂漠に置き去りにされた太ったドイツ人女性ジャスミン(マリアンネ・ゼーゲブレヒト)があらわれる。

ヒステリー気味の黒人女性と、太ったドイツ人女性。
この二人が、アメリカ社会ではややもすればどちらも差別の対象にされてしまいそうな存在であるところが、微妙に上手い。
得体の知れないジャスミンに対して、ブレンダは不快な態度をとり続けるのだが・・・。

ジャスミンが汚れ放題だったブレンダの事務室を掃除してしまう場面がある。
勝手に掃除をしたといってはじめは怒っていたブレンダも、きれいになってみれば案外気持ちのいいことに気づく。
ジャスミンは、長い間に少しずつたまっていたブレンダの心の中の埃も掃除してあげたのだろう。

少しずつ仲良くなっていく二人。
やがてジャスミンが見よう見まねで始めた手品が近隣の評判となっていく。
遊び歩いていた娘はモーテルを手伝うようになり、音楽にしか興味のなかった息子の演奏もモーテルに流れる。

本をちょっと読んだぐらいで素人がやれる手品がそれほどのものではないことは誰にだって判る。
現実的には、そんな程度の手品でモーテルが大繁盛するわけがない。
だから、これはおとぎ話なのである。
手品という小さな奇跡、それがドラマにも奇跡を起こす。
潤いを求める気持ちがあって、それが少しでも癒やされれば、人は楽しく幸せになれるのである。

このジャスミンという人物は、正直なところ、よくわからない人物である。
何も理屈など考えていない底抜けのお人好しなのか、それとも、砂漠に降りてきた天使のメタファと考えてしまってもよいのかも知れない。

モーテルに集うみんなの温かい友情の日々にも、いつかは終わりの日が来る。
観光ビザでアメリカへやって来ていたジャスミンが、去らなければならない日が来る。
ジャスミンは、あらわれたときと同じように大きな旅行鞄をがらがらと引いて、砂漠の外へ去って行く。

しかし、・・・。

主題歌はあの大ヒット曲「コーリング・ユー」。
この歌声が聞こえてくると、なぜかしみじみとしてしまう。この映画の魅力をさらに引き立たせている。
澄んだ歌声が風に乗って流れ、乾いた砂漠にしみこんでいくようだ。

誰にでもお勧めできる映画です。