あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「別離」 (2011年)

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2011年 イラン 123分
監督:アスガー・ファルハディ

イランの人間ドラマ。 ★★★☆

彼女が消えた浜辺」が印象的だったアスガー・ファルハディ監督の作品。
この作品も、イラン独特の宗教観や民族風習が根底にあり、日本人である私には新鮮なものがあった。
もちろん映画自体の完成度も高い。

ナデルとシミンの夫妻はテヘランに住んでいるのだが、妻のシミンは一人娘の将来のために海外への移住を希望する。
しかし夫のナデルには、アルツハイマー病の父がおり、その父を置いて外国へ行くことはできないと仲違いを起こし、裁判所に離婚申請をする事態になる。

この家族はおそらくはイランでは中流以上の生活なのだろう。
衣食住に困窮している様子はない。
シミンとの別居生活を始めたナデルは、父の介護のためにラジエーという女性を家政婦として雇う。

女性は髪を隠す布を巻いており、女性が夫以外の男性の身体に触れることは戒律に触れるようだ。
ラジエーは年老いたアルツハイマー病の老人の身体を清拭してやるときにも、あらかじめ教会へそういった行為をしてもよいかどうかを尋ねている。
なるほど、そういう社会なのだな。

ある日、事件が起きる。
ラジエーはやむを得ない事情から老人をベッドに縛り付けて外出したのだ。
ベッドから転がり落ちた状態の父を発見したナデルは激高し、ラジエーを突き飛ばして手荒く追い出す。
するとその夜、ラジエーが病院へかつぎ込まれたとの知らせがナデルに届く。
ラジエーの身にいったい何が起きたのだ?

裁判のやり方が日本やアメリカとはまったく違う。
被告や原告と裁判官との面談のような雰囲気で審議が進められる。
もちろん陪審員なんていない。

自分の生活や家族を守るために、皆がそれぞれに小さな嘘をつく。
嘘をついたことがそれぞれの心に大きな影を落とす。
皆、悪い人ではないのに、どうしてこんなことになっていってしまったのだろう。
皆、必死で生活していただけなのに。

重厚な油絵のような作品です。
遊び心なんてなく、ひたすら真面目に気持ちを塗り重ねてきます。
アカデミー外国語映画賞を受賞。また、ベルリン国際映画祭では金熊賞をはじめとした3部門で賞をとっています。