2011年 アメリカ 90分
監督:ガス・ヴァン・サント
出演:ミア・ワシコウスカ、 ヘンリー・ホッパー、 加瀬亮
死を描く透明な感覚のドラマ。 ★★★
知り合った恋人は、実は余命3ヶ月だった・・・。
とくれば、邦画を始めとしてほとんどの映画では、涙がにじんでくるような描き方をするところ(観たことはないけれども「世界の中心で愛を叫ぶ」など?)。
しかし、この映画は違う。
始めから登場人物たちの生は死と共にある。だから、どこかふっきれている。
交通事故で両親を失い、自身も臨死を体験した少年、イーノック(ヘンリー・ホッパー)。
彼は見ず知らずの他人の葬儀に紛れ混むことを繰り返していた。
そんな会場で出会った少女がアナベル(ミア・ワシコウスカ)。
実はアナベルは末期癌に冒されていて、残された余命は3ヶ月だった。
そうして始まるイーノックとアナベルの物語なのだが、始めから二人のあいだには「死」があったわけだ。
おまけにイーノックには日本人の特攻青年ヒロシ(加瀬亮)の霊も見えている。
臨死体験をして死に触れたイーノック、死を3ヵ月後に控えたアナベル、そしてもう死んでしまっているヒロシ。
要するに、これは一度死んだ人と、もうすぐ死ぬ人と、もう死んでしまっている人の物語。
3人ともに死というものを淡々と受け入れているように見える。
イーノックとヒロシはよく戦艦ゲームをして遊ぶ。
イーノックとアナベルは霊安室でデートしたりもする。
見咎めた看護士達に、アナベルは「もうすぐ私もここに来るから」と云う。
アナベルが癌病棟の少女だと知れば、誰もなにも言えなくなってしまう。
しかも、アナベルには他の人が考えるような切羽詰まった思いがあるわけでもなく、予定された未来がそうであるだけのように思える。
やがてやってくる一つのイベント、たとえば学校の卒業式とか、あるいは結婚式とか、そんなものを迎える感覚。
やがて・・・。
それまでは特攻服姿だった霊のヒロシが正装姿でアナベルを迎えに来る。
そしてアナベルを向こうの世界に連れて行く。
アナベルの告別式で、順番が回ってきたイーノックもスピーチをはじめる。穏やかな微笑みを浮かべて。
ラストに、イーノックとアナベルが自分たちをかたどった路上のチョーク跡が映る。
それは二人がこの世に存在したことの記録であったようだ。
死を描きながらも、まったく悲壮感も感傷もなかった。
登場人物たちは、死をただそこにあるものとして受け止めていた。
不思議な感覚の映画だった。