あきりんの映画生活

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「天空の蜂」 (2015年)

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2015年 日本 139分
監督:堤幸彦
出演:江口洋介、 本木雅弘、 仲間由紀恵、 綾野剛

日本の原発は安全か? ★★★

なんといっても、東野圭吾が今から20年前にこの小説を発表していたことに感嘆する。
あの福島原発の事故以後は、日本中の人が、もし、原発が・・・という恐怖を現実のものとして感じるようになった。
しかし20年前には、原発安全神話は、たとえそれが絵空事であっても、ほとんどの日本人は疑いもしていなかっただろう。
東野圭吾の先見の明に感嘆。

さらにいえば、よくぞこの映画を作成したな、という感心もした。
どこかの国に比べれば、まだ日本は言論の自由がある国。
それでも、資本大会社界ではこれまで暗黙の内にタブー視されてきた原発の危険性を題材にした映画を、よくぞ制作したものだ。

映画の骨子はもうよく知られているから、くどくどとは書かない。
自衛隊が発注していた大型ヘリを乗っ取った犯人は、そのヘリを遠隔操作で原発の上にホバリングさせる。
ヘリの燃料が切れるまでに日本中の原発を使用不能にしなければ、ヘリを原発の上に墜落させるぞ。

ヘリのなかに偶然取り残されてしまった子どもの救出作戦や、警察の犯人捜しなど、アクション部分、サスペンス部分も、巧みに組み込まれている。
言葉による原発の状況説明などがやや煩雑な感じもするが、これは映像では伝えにくい内容なので、ある程度は致し方なかっただろう。

この犯人は、ヘリコプターに積み込んだダイナマイト10本分ぐらいの爆発では原発は壊れないことを計算尽くだった。
そのうえでこの計画を実行している。
彼の言いたかったことは、これがダイナマイト100本分の爆発だったらどうなっていたのか、そんなことが絶対に起こらないとなぜ日本国民は思ってしまっているのか、もう一度考え直して欲しい、ということだったのだろう。
鋭い。

それにしても東野圭吾の巧みなところは、そんな真剣な問題提起を、完全にエンターテイメントとして差し出して来ているところである。
ただやたらに原発反対と叫ぶのではなく、充分な娯楽性を持った作品としているところが、すごい。
(もちろん、原作小説やこの映画が反原発を主張しているわけではないし、原発を容認しているわけでもない。)

主人公は一応は江口洋介だったが、実際の主人公は本木雅弘だったと思う。
彼の行動の意味が、この映画の主題だったと考えられる。
最後近くに、本木が原発の建物の屋上で天に向かって手をさしのべる映像があった。
ここはイメージ映像なのだが、彼の過去の大きな意味を持つ行為と重なり合って、思わず唸ってしまった。
この映像がクライマックスであった。

タイトルの巧みさにも感心した。
子供は蜂に刺されるまでは蜂が危険だとは気付かない。なるほど、その通りだ。
原作小説が書かれて16年後に起こった福島の原発事故は、未だに傷の癒えていない、そして未だに癒える目途がまったく立っていない蜂の刺し傷だったわけだ。

繰り返しになるが、エンタメ性を損なうことなくこういった社会問題を提起してきた作品として、感心した。

それにしても、原作にはなかったエピローグは、やはり余分に思えた。
あの部分が好かったという人もいるようなのだが・・・。