2002年 フランス 132分
監督:デルフィーヌ・グレーズ
牛の死によって結びつく人たちの群像劇。 ★★★☆
ほとんどノー・チェックで見始めた作品なのだが、これがなかなかに好かった。
なにか暗示的な映像もきれいで、物語の奥行きを膨らませてくれていた。
4つの家族の物語が織り込まれるように提示される。
冒頭に闘牛の場面が映る。
とどめを刺すはずだった闘牛士ヴィクトールは牡牛ロメロに角で突かれ、意識不明のまま病院へ運ばれる。
そしてその牡牛は解体され、肉や骨、眼球、角は、フランスやベルギーに送られていく。
5歳のウィニーは感受性の強いちょっと変わった女の子。
ヴィクトールのが倒れる場面をテレビで観ていたウィニーは、自分の頭に手作りの角をつけるようになる。
なにか不思議な霊感のようなものを感じさせる。
ウイニーの保育園に勤めるジャンヌは、5歳までの記憶がない。
彼女は母親アリスと一緒に偶然、トラックで運ばれるロメロの死骸を目にする。
ある日、母親は突然自殺をしてしまい、その死体を前に父親は、彼女が昔、誤って親友を階段から突き落として殺してしまった、と話す。
どんな人にも、それぞれにドラマはあるのだが、ここにあらわれるのは普通ではないドラマである。
この映画は、そんな普通ではないドラマが、なんでもないことが起きることのように描いている。
出産が間近いベティは、実は五つ子を妊娠しているのだが、なぜか獣医の夫ジャックにはそのことを打ち明けられんしでいる。
ジャックは自分が父親になることがストレスとなっており、職場で不倫を続けている。
彼はある日ロメロの眼を自宅に持ち帰る。
やがて、五つ子は無事に生まれ、ジャックはすべてを受け入れられるようになる。
キャンピングカーで暮らす貧しい老いた母と、母に溺愛されている息子のリュック。
母は息子の誕生日祝いに牛の角を買って帰ってくる。もちろんそれはあのロメロの角である。
そのリュックの前に、父親だと思える聾唖の老人があらわれる、
それと存在を入れ替えるように母親は死んでいく。
こう書いてくると煩雑な内容のように思えるかもしれないが、一つ一つの物語はきちんと描かれていて、人生の一部を切りとった映像として観ることができる。
そして生と死が様々な形であらわれる。
さらに、意味は判らないのだが、5という数字があちらこちらで関係してくる。
売れない女優と自殺志願者の恋物語もある。
女優の卵は働いているスーパーで牛の骨を売ったリもしている。
最後に、自殺したアリスの肝臓は、牛ロメロによって腹部を刺されて重傷だったヴィクトールに移植されて、彼は生き延びる。
彼はふたたび闘牛場で牛と対決する。
なにかに捕らわれていた人たちは、なにかをきっかけに、それを振り払って新しく生き始める。
オムニバスもの、群像劇ものが好きな人にはお勧めです。
カンヌ国際映画祭“ある視点”部門ヤング賞を受賞しています。