2005年 日本 123分
監督:堤幸彦
出演:渡辺謙、 樋口可南子
若年性アルツハイマー病。 ★★★☆
おおよそのあらすじは知っていた。
だから、観ていてきっと辛くなるのだろうな、というように思ってしまって、なかなか鑑賞できずにいた。
しかし、観てみると、たしかに辛い内容ではあるのだが、どこか優しさに包まれるようであった。
49歳の佐伯(渡辺謙)は、バリバリの大手広告代理店のやり手部長。
一人娘の結婚も控えて、張り切っている毎日だったのだが、急に物忘れがひどくなってきた。
疲れがたまっているのかな?
しかし、念のためにと受診した病院での簡単な記憶検査にも答えられない佐伯。
MRI検査の結果、告げられた病名は若年性アルツハイマーだった。
そんな馬鹿なことがあるものか。なんでこの私がそんな病気にならなければならないんだ。
若年性アルツハイマー病を扱った韓国映画に「私の頭の中の消しゴム」があった。
まだあまりこの病気のことが一般的ではなかったころの映画で、はじめは奇妙なタイトルだと思っていたのだが、観ているうちに納得できた。
たしかに書かれていたはずの記憶が、消しゴムで消されたみたいに私の頭の中から消えていっているのだ。
最近の映画では、ジュリアン・ムーアの「アリスのままで」があった。
あの映画では、自分の病気を知ったヒロインが、将来の自分に向かって、この質問が答えられなくなったらこの薬を飲みなさい、とメッセージを送るところが切なかった。
病は人の気持ちなどお構いなしに進行する。
佐伯が得意先との大切なアポを忘れてしまったり、目的の場所にどうやって行けばよいのか判らなくなったりする場面は、とても気持ちに似突き刺さってくる。
もし自分があんな風になっていったらどうしよう?
そんな佐伯を終始支える妻の枝実子(樋口可南子)が実にいい。
佐伯は、枝実子と知り合った山奥の窯元をふらふらと訪れる。
そこで幻のような一夜を過ごすのだ。
(以下、ネタバレ)
佐伯が一夜を明かして山道を下っていくと、彼を心配した枝実子がやってくる。
佐伯を見つけてほっとしたように、あなた、と語りかけた枝実子に、佐伯は知らない人に話しかけるように、僕は駅まで行くのですがあなたも一緒に行きますか、と言う。
ついに、献身的な妻のことさえ判らなくなった佐伯。
思わず涙腺が緩んでしまう。
佐伯は自分の人生を失っていく。いや、自分自身を失っていく。
そんな佐伯は枝実子の中で生き続けていくようだった。