あきりんの映画生活

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「クローンは故郷をめざす」 (2008年)

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2008年 日本
監督:中島莞彌
出演:及川光博、 石田えり、 永作博美

SF風の哲学ドラマ。 ★★★★

ほとんど情報を知らなかった作品だが、何気なく観て、惹きこまれた。
大げさに言えば、人間が存在することの哀しみのようなものを感じた。

タイトルから判るように、この映画はクローンを扱っている。
これまでのクローンを扱った映画では、主人公が実はクローンだったという真実が隠されていたというものがほとんどだった。
本作は、はじめからクローンだったらどうなる?という視点で描かれている。

クローン技術が研究開発されている近未来。
生命の危険に直面する宇宙飛行士を、万一の場合には、クローン人間として再生させる研究がすすめられていた。
そして、宇宙で不慮の事故死をした高原耕平(及川光博)は事前の契約に従って、クローン人間として再生された。

画面は青系を主とした落ちついた色調で、どこか無機質な雰囲気をよくあらわしている。
主演の及川光博も整った顔つきで、どことなく人工的なものも思わせて、この役には合っていた。
そして主人公の故郷となる農村風景は、緑がざわめいていて、対照をなしていた。
緑は雨に濡れ、霧にかすんでいる。

クローンであるから、再生された時点で記憶も完全に移植されるはずだった。
しかし、クローン再生された耕平は記憶障害を起こしていた。
幼い頃に川で溺れ死んだ双子の弟の記憶のみが強く甦り、彼は研究所を抜け出して故郷を目指す。

この幼年時代の思い出がよく効いていた。
古い家の庭で遊ぶ耕平と双子の弟。弟にいたずらをしては泣かせて母(石田えり 彼女が好い味を出していた)に怒られていた自分。
二人で川に遊びに行き、おぼれかけた自分を助けようとして溺死してしまった弟。
自分のために死んでしまった弟・・・。

幻想的な画面への転移もある。
とぼとぼと故郷をめざしていたクローンの耕平は、弟が溺れた川原で宇宙服を見つける。
ヘルメットの中を見ると、そこにはもう一人の自分の顔がある。
それは死んだはずの自分なのか、それとも川で溺れ死んだ弟なのか。

耕平にも判らない、観ている者にも判らない。
クローンの耕平は、(見た目には空っぽのような)宇宙服を背負って、とぼとぼとさらに故郷をめざす。

完全なクローン再生が失敗したと知った研究所の科学者は、実はクローンの耕平を殺すための薬液をすでに注入していた。
そして、完全な記憶を移植した2人目のクロ-ン耕平を再生した。
その耕平も、一人目の耕平を追うように、やはり故郷をめざす。

生身の耕平には、幼いころに受けた手の甲の傷があった。
しかし、DNAから再生されたクローン耕平には、当然ながらその傷はない。
観ている者も、その傷の有無で、生身の耕平なのかクローン耕平なのかが判るようになっていた。

今は廃屋になっている耕平の家。
そこで2人目のクローン耕平は宇宙服を見つける。
ヘルメットの中を見ると、そこには・・・。

最後にクローンだったはずの耕平の手の甲には傷があらわれていた。
これは? 映画はそんなことはなにも説明せずに、幻想のままで終わっていく。

SF仕立ての物語だが、どちらかといえば哲学的、詩的な映画。
静かで、ノスタルジーを感じさせるような画面はタルコフスキーを思わせる、と言ったら、いくら何でも言い過ぎか(苦笑)。
しかし、それぐらいに美しい。

サンダンス映画祭での映像作家受賞脚本の映画化。
脚本に惚れ込んだ審査委員長のヴィム・ヴェンダースが製作総指揮をしています。