あきりんの映画生活

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「楽園の瑕」 (1994年)

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1994年 香港 100分
監督:ウォン・カーウァイ
出演:レスリー・チャッン、 マギー・チャン、 レオン・カーフェイ、 ブリジッド・リン、 トニー・レオン

詩的な武侠もの。 ★★★★

ウォン・カーウァイが「恋する惑星」や「天使の涙」と同時期に撮っていた武侠もの。
武侠ものと言ってもカーウァイのことなので、物語は時空もねじれるように絡み合い、画面は幻想的と言えるほどに美しい。

砂漠に住む欧陽鋒(レスリー・チャン)は殺し屋の元締めをしている。
春になると黄薬師(レオン・カーフェイ)が訪れるのだが、ある春に彼は、飲めば過去を忘れられるという酒を持参する。
欧陽鋒には忘れたい過去があるのか、それとも黄薬師が忘れさせたい過去があるのか。

荒涼とした砂漠には風が吹き荒れている。
掘っ立て小屋のような粗末な家に住む欧陽鋒の世間と隔絶したような生活が描かれる。
荒涼とした風景なのだが、風は人の心の中を吹き抜けていくようで、どこまでも美しい。
そんな彼の元を訪ねる人もあり、また彼が訪ねていく人もいる。

実際のところ、物語は幾組かの人間関係が平行するように描かれ、あるところでは交差し、かなり複雑である。
欧陽峰が剣のために捨てた女(マギー・チャン)は、兄の妻となっていた。
妖しく迫った女は欧に未練を残したまま兄と結婚したようなのだ。

男装の麗人・慕容燕(ブリジット・リン)は黄薬師に裏切られたことがあった。
そこで男装の慕容燕は、欧陽峰に黄薬師を殺してくれと頼む。
さらに別の時にあらわれた女性としての慕容燕は、男の慕容燕を殺してくれと依頼する。
男と女に引き裂かれた二重人格のようなブリジット・リンが、交互にあらわれたりするので、見ている者は少なからず混乱するぞ(苦笑)。

かたや黄薬師は、桃の花を見に行くといって桃花林へ向かい、親友の妻、桃花に出会う。
しかしその親友(トニー・レオン)は薬師によって妻との仲を裂かれ、行方不明になっている。
う~ん、話がややこしい。
誰がどうなっているのだが・・・?

盲目となったトニー・レオンもあらわれるし、弟の仇を討ちたい貧しい少女もあらわれる。
さらには妻を連れて武侠の修行を続ける裸足の男も現れる。
そして、兄嫁となったマギー・チャンは、欧陽峰の元へ、飲めば過去を忘れられる酒を届けたりもするのだ。

欧陽鋒の周りでこれらの人々の彩なす影が移ろう。
どこまでが実際に起こったことで、どこからが夢幻なのか、それもあやふやになってくる。
風にまき散らされていく砂漠の砂のように人々の思いが舞っている。

原題は「東邪西毒」。
これは香港では有名な武侠小説に出てくる2人の名前らしい。
そしてこの映画の登場人物の黄薬師が後に東邪と呼ばれ、欧陽鋒が西毒と呼ばれるようになったらしい。

武侠に材を取ってはいるのだが、物語は断ちがたい男女の愛憎を主として進む。
妖しくも美しい映画。
さすがウォン・カーウァイだ。