あきりんの映画生活

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「箱男」 (2024年) 社会とはどんな関係を築く?

2024年 120分 日本 
監督:石井岳龍
出演:永瀬正敏、 浅野忠信、 白本彩奈、 佐藤浩市

純文学の映画化。 ★★★☆

 

原作はもちろん安部公房の同名小説。
1973年に新潮社から”純文学書き下ろし特別作品”として出版された。要するに雑誌連載ものではなかったということである。
安部は6年かけて書き上げたという。

 

箱男、それはダンボール箱を頭からすっぽりと被った人物である。
その姿で街をさまよい、箱に切り抜いた覗き窓から外を観察してよしなし事をノートに記述する。
カメラマンの“わたし”は街で見かけた箱男に心を奪われる。
そして自分もダンボール箱をかぶって箱男として生きることを選ぶ。

 

石井岳龍監督は、安部公房から映画化の許諾を得て、小説発表の約25年後の1997年に撮影をしようとしている。
日独合作としてハンブルクで準備をしていたのだが、資金上の問題で撮影開始前日に中止になったという。何があったのだろうか?
とにかく、それからまた27年が経ってやっと映画ができたのである。小説発表の50年あまり後ということになる。
どうしても映像であらわしたいのだという、監督の執念が感じられる。

 

箱男段ボール箱は、社会と自分を切り離す装置なのだが、覗き窓によって社会と繋がってもいる。
そんな箱男を社会は黙殺してくれる。
それこそが箱男が望んだことであり、社会の制約から解き放たれた存在になれるのだ。

 

段ボール箱に小さく空いた長方形の窓。
そこからじっと箱の外の世間を見つめる二つの眼。
箱男に遭遇する人々は、果たしてこの不気味な存在のものを見ている側なのか、それともじっと見られている側なのか。

 

主人公の”わたし”は、27年前の企画でも主演予定だった永瀬正敏
そして“わたし”をつけ狙って箱男の存在を乗っ取ろうとするニセ医者に浅野忠信
箱男を完全犯罪に利用しようと企む軍医に佐藤浩市
“わたし”を誘惑する謎の女も登場して、これは白本彩奈という女優さんだった。

 

たいへんに形而上的な世界を具象化して見せたところに原作の面白さがあった。
さらに今度はそれを映像化して見せてきたのだ。
箱男の独特の世界観が私なりに感じられて、重みのある作品だった。

 

しかし最後がいけなかった。最終場面、そこで映画は観客に向かって「箱男はあなたです」といってしまった。
これを言ってしまっては駄目だろう。

 

スクリーンの四角はそのままのぞき穴の四角になっていた。
原作で描かれている箱の覗き穴とは縦横の比率が異なっており、これもスクリーンの縦横比率に合わせてのことだったとのこと。
そこまでやったのだから映像で最後まで語って欲しかったぞ。