あきりんの映画生活

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「気狂いピエロの決闘」 (2010年)

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2010年 スペイン 107分
監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア
出演:カルロス・アレセス、 アントニオ・デ・ラ・トレ、 カロリーナ・バング

ブラック・コメディ? ★★★★

物語のあらすじとしては、一人の曲芸師を同じサーカスに所属する二人のピエロが奪いあうというもの。
言ってみればどこにでもあるような三角関係なのだが、どこにでもあるような映画にはなっていないところがすごい。
感情は奇妙に歪んでいくし、シュールな展開もふんだんに入りこんでくる。

スペイン内戦で殺された父の意志を継いでピエロとなったハビエル。
しかし、あまりにも辛い過去を背負ってしまったために、ハビエルは泣きピエロにしかなることは出来なかった。
そんな彼が入団したサーカス団で曲芸師のナタリオに惹かれる。
しかし彼女はサーカスの花形ピエロ、セルジオの情婦だった。

セルジオは普段は統率力もある奴なのだが、酒が入ると暴君となり、ナタリアに暴力をふるう。でもナタリアはそんなセルジオから離れられない。
それなのにナタリアは、セルジオの目を盗んで、ハビエルをデートに誘ったりする。
なんでそんな真似をするんだ? なんてお前は罪作りなんだ!

時代は、スペイン内戦からはじまり、独裁政権とのちの政権不穏の頃まで。
深刻な時代背景で、人々は理不尽な政治権力に翻弄されたりもするのだが、どこかブラックなユーモア感も漂わせる。
それに鉈で敵をなぎ倒すというスプラッターな場面もあれば、自ら顔面を醜く焼いてしまうというホラーな展開もある。
でも、三角関係の恋愛ものでもあるのだ。
要するに、何でもあり。

ハビエルは嫉妬に駆られたセルジオに半死の目に遭わされたりもする。
しかし、ナタリアに暴力をふるうセルジオは、ハビエルに襲われ、顔面は醜い手術跡だらけとなる。
まるでフランケンシュタインを更に醜くしたよう。

警察に追われたハビエルは全裸で逃げ回り、森の中で隠遁生活を始める。
そこをフランコ総統の部下に捕まり、狩猟の慰み者にされてしまったりもする。
う~ん、何を考えたのか、ハビエルは苛性ソーダで顔面を焼き、両頬にはアイロンで醜い跡を付ける。
そして両手に機関銃を抱えて殺戮をはじめる。

それほど長くはない映画なのだが、あまりのハチャメチャな展開に、この映画はどこまで行ってしまうんだ?とわくわくもさせられる。
そう、あのエミール・クストリッツァ監督の「アンダーグランド」や「オン・ザ・ミルキー・ロード」を思い浮かべてしまった。

ナタリアも困るよなあ。
自分のために、DVの醜いフランケンシュタイン男と、常軌を逸した顔面火傷の男が争ってくれてもなあ。
でも、元はと言えば自分が蒔いた種?

一人の女性を得るためになり振り構わずに争った二人だったが、終わってみれば、何も残ってはおらず、ただ徒労感ばかりのよう。
あのスペイン内戦は、一つの国が独裁政権共産主義に分かれての戦いだった。
戦争の常で、国土は荒廃し人々は疲れ果て、何も残らなかった。
この映画、その徒労感を風刺しているようにも取れる、と考えるのはうがち過ぎか。

なんとこの映画、ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)と脚本賞を受賞している。
へえぇ~。