2009年 120分
監督:ルカ・グァダニーノ
出演:ティルダ・スウィントン、 フラヴィオ・バレンティ
熟女の禁断の恋。 ★★★
この映画でヒロインを務めたティルダ・スウィントンといえば、ちょっと変人的な役柄ばかりが印象に残っていた。
極めつけは「スノー・ピアサー」での怪演。出っ歯の珍妙な官吏役だった。
なので、本作で彼女が実は正統派美人であることを知って驚いた。
さて。
本作のティルダは、ロシアからイタリアの富豪一族に嫁いでいるエンマ。
息子、娘に恵まれて優雅な生活を送っている良妻賢母なのだが、どこかに満たされないものがあったのだろう。
彼女は息子の友人で料理人アントニオと出会って、すぐに心を奪われれていく。
おいおい、自分の子供と同い年の若者だぞ。いいのか。
映像は深みがあって、その上で華やかに明るい。
ヴィスコンティを彷彿させる映像美だとの評価も散見する。
たしかに、やや古風な落ち着きのある衣装や建物、調度品のたたずまいはその雰囲気を出していた。
人目を忍んで逢瀬を重ねるエンマとアントニオ。
二人の息遣いや衣擦れが静かに画面に重なり、それを田舎の空や木漏れ日、鳥の声や水音が囲む。
気持ちの奥底には激情がうねっているのだろうが、画面はあくまでも静か。
それは二人のゆるやかな仕草や表情の変化で語られている。
物語自体は特別なものではない。
美しい妻であり母である熟女が年下の恋人と不倫関係となり、伝統ある一族の日々が崩壊していく・・・。
不倫はやがて家族に知られることとなり、そして思いがけない悲劇的な事故が家族を襲う。
それでも私は愛に生きるわっ!
最後近く、激情のままに家を出て行く決意をするエンマ。
奥様、奥様、持っていく荷物を用意いたしませんと・・・。長年使えてきた召使いが衣服を整えてくれる。
しかし、家族に別れを告げるエンマの姿は、バーキンやエルメスのバッグを持って街を歩いていた姿からはほど遠いものだった。ここは面白かった。
道徳や世俗観念による呪縛を払いのけて突き進もうとする男女の物語を、どこまでも美しいと思えるかどうか、だな。
ヒロインへの共感はできませんでしたが、私の評価はティルダの美しさに☆のおまけです。