あきりんの映画生活

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「流浪の月」 (2022年) 誰にも理解されなくても、それでも

2022年 日本 150分
監督:李相日
出演:広瀬すず、 松坂桃李

彷徨い続ける愛。 ★★★★

 

ある犯罪の加害者と被害者とされた者が、世間からの冷たい無理解のなかで、それでも支えあう。
原作は本屋大賞を受賞した凪良ゆうの同名小説(未読)。

 

雨の公園で濡れていた10歳の少女・更紗に、大学生だった文(松坂桃李)が傘をさしかける。
文は、家に帰ろうとしない更紗を自宅に連れて帰り、二人はそのまま2カ月を一緒に暮らす。
やがて文は更紗を幼女誘拐したということで逮捕され、二人は引き離されてしまう。

 

15年後、ロリコン者による誘拐の被害女児という烙印を世間に押された更紗(広瀬すず)は、ひっそりと暮らしていた。
そんなある日、彼女が古い建物の2階にある喫茶店に入ると、そこに文がいた。
互いに何も言わずに文の淹れてくれたコーヒーを飲む更紗。

 

広瀬すずは映画「海街diary」、そして「ちはやふる」で観たことがあった。
可愛くて天真爛漫で、少女漫画のヒロインにぴったりの女優さんだなと思っていた。
今作では過去の陰を負ったヒロインで、人物造形の幅が拡がっているようだった。

 

松坂桃李については、もうなにも言うことはない。
孤狼の血2」のすさまじい暴力から、「空白」の気弱さまで、その演技の幅は広い。
今作の無口で、すべてのことに耐えているような静寂さも好かった。

 

さて。静かに再会した二人だったが、今はそれぞれの相手がいた。
更紗には、時に無理解な同棲相手(横浜流星)がおり、文にはやさしく慕う彼女(多部未華子)がいたのだ。
しかし今、二人は真に支えあう相手に再会したのだった。

 

映像が美しい。
柔らかい日差しの差し込む窓、揺れるカーテン。そして仄暗い影を落とす喫茶店

 

二人が再会したことをかぎつけたマスコミは、再び過去の事件を蒸し返し、二人を執拗に報道する。
文の店には心ない落書きが殴り書きされる。
このあたりは、たとえば映画「望み」などでも観ることができたマスコミ報道の残酷さを感じさせる。
更紗の同棲相手は怒り狂い、文の彼女は泣き崩れる。
それでも更紗と文は、互いを他には代えられない相手として求め合ったのだ。

 

事件の加害者と被害者が、その後に相手を必要とする映画としては「さよなら渓谷」があった。
必要とした理由は今作とはまったく逆で、罪を問うためと贖罪のためだったが、それでも互いに相手の存在を必要とする生き様を描いていた。
(真木ようこが好演。お勧め映画です。)

 

閑話休題。若干の不満を。
観ている者は、2人がどこまでも純愛だったことを受け入れて物語を観ている。
更紗が幼い日の性的なトラウマを抱えていることは物語の基調として明かされていた。
一方の文がプラトニックに接していた理由も、ラスト近くで衝撃的に明かされる。

 

(以下、ネタバレにちかづきます)

 

そうだったのか、二人は精神的障害者と肉体的障害者だったのか。
確かに、文は冒頭近くで「死んでも知られたくない秘密がある」と言っていた。このことだったのか。
しかし、文に関しては、あまりに明確な肉体的理由はない方が好かった気がする。
文も何らかの精神的障害者だった方が深みが増したような気がするのだが、どうだろうか。

 

ラストシーン、手をつないで二人は横たわっている。更紗が「月のように流れていけばいいよ」と言う。
タイトルが見事にかちっとはまった瞬間だった。

 

世間の目で見れば二人は元犯罪者とその被害者。
そのレッテルを貼られて二人とも世間からはじき出されている。
しかし、二人はそれぞれが抱えている特別な不幸を互いに支え合うことができたのだ。

 

そうすることによって二人は生きつづけていくことができるのだろう、と思わせるラストだった。
好い映画だった。