1979年 イギリス 97分
監督:デレク・ジャーマン
出演:ヒースコート・ウィリアムズ、 トーヤ・ウイルコックス、 ジャック・バーケット
シェークスピア劇。 ★★★
名前だけは聞いていたデレク・ジャーマン監督の作品を、初めて観た。
原作はシェークスピアの同名戯曲で、彼の最後の作品とのこと。本作以外にも幾度となく映画化されており、物語自体は有名なわけだ。
実弟の陰謀でミラノ大公の地位を追われたプロスペローは、娘ミランダと孤島の城館で暮らしている。
魔術を使うことができるプロスペローは、魔女の息子や精霊を下僕として使っていたが、ある夜、彼は弟たちの乗った船を嵐(テンペスト)で遭難させ、自分の住む孤島へたどりつかせる。そして、復讐劇が始まる・・・。
なんと形容していいのか、この映画の雰囲気を説明するのは難しい。
ろうそくの炎に照らされた古い城館の室内が主な舞台。
だから画面は暗く、炎に照らされた部分だけが揺らめいている。その背景は暗闇に紛れている。
プロスペローもミランダも、一般の社会からは隔絶された世界に生きていて、おどろおどろしい。
さらに奇っ怪なのは、魔女の息子だった下男のキャリバン。
めまぐるしく変わる大げさな表情が、異様な世界の住人であることを納得させる。
そう、登場人物たちは、あの唐十郎の状況劇場の芝居にあらわれる役者を思わせる。麿赤児とか、李麗仙とか。
あるいは、暗黒舞踏で異様な舞台を造りあげていた土方巽。
映画自体も、面白かったのか、そうでなかったのか、これも言うことが難しい。
ストーリーが面白いとか、俳優が面白いとか、そんな次元で善し悪しが言えるような映画ではない。
作り物としての映画が、ぽんと目の前に差し出されて、その存在を受け入れられるか否か、そんな感じなのだ。
怨念と憎悪の復讐劇は、やがて赦しが行われて、ミランダと王子の結婚式となる。場面もこれまでとは打って変わった明るさとなる。
この大円団で水兵たちが踊る場面がある。これがまた、役者たちが指示されたとおりに練習もしないで踊っているという感じで、てんでにばらばら。
とってつけたような作り物めいていて、そこが奇妙に面白い。
それに、さらにとってつけたようにジャズ・スタンダードの「ストーミィ・ウエザー」が歌われる。
こりゃ、なんだ?
繰り返しになるが、徹頭徹尾、おどろおどろしい作り物を目指している映画だといえる。
リアリティなどは全くない。
いや、なるべくリアリティが出ないように、出ないように、わざとらしさをこれでもかと見せつけてくる映画。
さて、同じ原作を他の監督が撮った「テンペスト」を観たことがないのだが、どうなのだろう?
しかし、少なくともこの映画を他の映画と混同したりすることは絶対にないだろう。
それほど独特の雰囲気を持った映画だった。
好みは分かれるだろうな。