2009年 イラン 116分
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ゴルシフテ・ファラハニ
独特な雰囲気のサスペンス映画。 ★★★★
イスラム文化圏であるイラン映画。
登場する女性はみな頭を布で巻いていて、目鼻立ちはくっきりとしている。みんな、ものすごい美人ばかり。
週末の旅行に海岸のリゾート地にやってきた3組の家族と一人ずつの独身の男女。
旅行をとりまとめているセピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)に誘われて参加した若い女性がエリ。
実は、セピデーは、エリに離婚したばかりの友人アーマドを紹介しようという思惑があったのだ。
初めのうちこそ登場人物の見分けに混乱するのだが、すぐにすっきりと判ってくる。
これは一人一人の描き方が上手いからだろう。
リゾート地にやって来たのだが、借りることのできたのは埃が積もっていて、すきま風が吹きこむような古い別荘。
外は風が強く、波も高い。砂が舞い飛んでいるようだ。
バカンスのはずなのに、なぜか不吉な雰囲気がそこはかとなく漂っている。
この雰囲気の出し方が上手い。
翌日、エリは海岸から姿を消してしまう。
何も言わずにひとりで帰ってしまったのか、それとも事故に遭ったのか、残された人々は必死でエリの行方を捜す。
波が高く荒れた浜辺、吹き付ける強い風、そして古びた貸別荘。
エリが行方不明になってからの人々の不安感、焦燥感がひしひしと伝わってくる。
物語はこの海岸と貸別荘だけで展開されるのだが、これらの舞台が実に効果的。
(以下、ネタバレ気味)
やがてエリには婚約者がいることが判り、連絡を受けた彼も海岸に現れる。
物語の背景には、イスラム文化圏での男女関係の規律が関係してくる。
日本人の目からは、そんなに堅いことを言わなくても・・・ということにもなるのだが、それはお国柄というものだろう。
物語のあらすじだけを言ってしまえば、とても単純なサスペンスなのだが、見せ方が巧みである。
肌寒さを感じるような不穏感、緊張感。
それらが、アメリカ映画やヨーロッパ映画、邦画では感じることのない独特の魅力的な雰囲気でよくあらわされている。
ベルリン国際映画祭で監督賞を取っています。
この監督の最近の作品は「別離」。これも観なくては・・・。