あきりんの映画生活

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「さよなら渓谷」 (2012年)

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2012年 日本 117分
監督:大森立嗣
出演:真木よう子、 大西信満、 大森南朋

憎しみの愛 ★★★★

原作は「悪人」の吉田修一。彼は悪事を働いた人物について書き続けている。
惹き文句は「それは憎しみか、償いか、それとも愛か」

幼いわが娘を殺した母親が逮捕され、連日マスコミが犯人の家の周りに押しかけている。
その隣でひっそりと暮らしていた尾崎俊介大西信満)と妻のかなこ(真木よう子)。隣人の様子を取材しようとする記者たちにも素っ気ない対応をしている。
ところが、俊介が犯人の母親と不倫関係にあったとの情報が警察に入り、俊介の身辺も騒がしくなる。
その情報を提供したのは、妻のかなこだったのだ。

映画は、俊介とかなこのはげしい営みの場面から始まる。
お互いがお互いを必死に求めているのが伝わってくるような、そんな肉体の絡み合いの場面である。
それは肉体自身の欲望なのか、それとも、心の欲望が肉体をあやつっているのか・・・。

この映画の公式ガイドでは、「俊介とかなこは15年前の残酷事件の被害者と加害者だった」というところまでを明らかにしている。
物語は、今の二人の様子と、週刊誌記者の渡辺(大森南朋、大森監督の実弟)が取材で明らかにしていく15年前の事件、そしてそれからの二人の様子を、交互に映しながら進んでいく。

映画の眼目は、なぜ、事件の被害者と加害者は夫婦になったのか?、なぜ、夫婦でありつづけるのか? という、通常では理解し得ないような男女の心の慟哭にある。

かなこは俊介に向かって「私よりも不幸になってよ」と泣き叫ぶ。
そして、なぜ?と訊ねる渡辺に、「私たちは不幸になるために一緒に暮らしている」と語る。

この映画の二人はそれぞれに素晴らしい。
真木よう子は、感情を露わにした場面でよりも、感情を押し殺しての無表情な演技でよりいっそうの存在感を示していた。
大西信満も、不器用でいて一生懸命に誠実な(そうなのだ、彼が他の連中に比べれば一番誠実だったのだ)様子をよくあらわしていた。

おそらくは、かなこにとっては憎しみがあるからこその愛だったのだろう。
あるいは、愛することによって自分の中の憎悪をたしかめていたのかもしれない。

激しい寒風の中を彷徨う二人の姿は切ないものだった。
それに対比されるような穏やかな渓谷の橋の上にいる二人の姿も切ないものだった。
言葉では説明できない余韻が残る作品だった。

椎名林檎作曲のエンドテーマ「幸先坂」を真木よう子自身が歌っている。
たどたどしい歌い方が逆にしみじみとしたものを伝えてきていた。
歌詞には「夜と昼 泪に暮れても/今日は何かいいことありそう」とある。
かなこも、素直に幸せを求めればいいのになあ、と、つい思ってしまった。

この作品で真木よう子日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を獲っている。
納得の存在感であった。

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(お断り)

誤ってこの「さよなら渓谷」の記事を2重投稿してしまいました。
気がついたときには、すでにそれぞれの記事にコメントをいただいていました。

ということで、どちらかを削除するということも出来なくなってしまいました。
すみません。

同じ記事が2つ続いています。