2019年 日本 111分
監督:深田晃司
出演:筒井真理子、 市川実日子、 池松壮亮
深層心理ドラマ。 ★★★☆
微妙な心理が錯綜するドラマである。
主人公についても、その周りの人たちについても、誰が正しくて誰が間違っているなんて簡単には言えない。
社会で暮らす人々には、誰でもその人なりの理由や事情を抱えている。
そんなことを、ひとつの事件への関わりと、それをマスコミ報道が書き立てていく過程で考えさせてくれる。
訪問看護師として信頼を集めていた白川市子(筒井真里子)。
訪問先の大石家では、介護している老婆の孫である基子(市川実日子)、サキ姉妹とも私的な付き合いをするほどだった。
しかし、ある日、サキが行方不明になってしまう。何者かに誘拐されたのだった。
どの人もある時には正しい行いをしているし、ある時には誤った行いをしている。
いや、その正しさ、過ちも、誰にとってかという立場で変わってくる。
人間の感情や行為は本来そのようなものだろう。
映画は時間軸が錯綜する。
事件の前の穏やかな日々の市子。そして事件のまっただ中で翻弄される市子。そして今の精神的にすさんだ市子。
同じ一人の人間でありながら、その生活は大きく変化している。市子の髪型や髪の色でいつの時間を描いているのかは見分けが付くようになっている。
市子は真面目に生きてきた善良な女性であるはずだった。
それなのに、自分にはまったく責任がない事件をきっかけに不条理に人生を奪われていった。
事件を興味本位で取りあげるマスコミが市子を追い込んでいく。
実はサチを誘拐したのは市子の甥だったのだ。
そのことが明るみに出ると、マスコミはこぞって市子をワイドショーの取材対象にし始める。
曰く、「被害者の家に乗り込んでいた悪魔のような訪問看護師。内情を探っていたのか?」などなど。
そして、さらにTVの取材に対して基子が市子を告発するような証言をしてしまう。
そこには基子の市子に対する憧れ以上の感情が作用もしていたのだろう。
市子が結婚するという事を知った基子の、嫉妬のような捻れた感情が起こしたことだったのだろう。
そしてその証言をTVで観たときの市子の衝撃。
彼女にも信じていた人に裏切られたという怒りと絶望感があっただろう。
こうして市子と基子の感情がどんどんもつれていく。
基子に対する市子の復習もすごかった。
そこまでのことをするのかという気にもなる。
基子の恋人で、市子の復讐の出汁につかわれた池松壮亮が、脇役なのだが、妙に存在感があった。
ヒロインの筒井真理子は59歳。その年齢を知って少し驚いた。中年というか、もう初老ではないか。
初めて見た女優さんだったが、陰のあるような、謎めいた部分を孕んでいる雰囲気だった
体当たり演技もあって、瞠目すべき女優だと思った。
映画タイトルの「よこがお」とは、こちらからは見えない人の横顔の反対側には別の人が住んでいる、ということのようだ。
ハッピーエンドなどとはほど遠い終わり方なのだが、後にまで余韻を残す作品だった。