2019年 アメリカ 131分
監督:クリント・イーストウッド
出演:ポール・ウォルター・ハウザー、 サム・ロックウェル、 キャシー・ベイツ
英雄か、犯人か。 ★★★
1996年のオリンピックが開かれていたアトランタ。
高齢の母(キャシー・ベイツ)と2人暮らしのリチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)は、そのイベント会場で警備員をしていた。
実直に仕事をおこなう彼は、ベンチの下に置かれた不審なリュックを発見する。
えっ、これは爆発物じゃないか。みんな、逃げろっ!
爆発によって何人かの死者は出たものの、大惨事はなんとかまぬがれる。
マスコミは惨事を未然に防いだ英雄として彼を一斉に報道する。
新聞には出るわ、テレビには出演するわ。
しかし、事件の捜査に当たったFBIは、第一発見者のリチャードを疑い始める。
同じイーストウッド監督の「ハドソン川の軌跡」でも、主人公の機長は一度は乗客を救った英雄と言われた。
しかし、やがて操縦の判断ミスをした事故の張本人だと糾弾されもした。
一度非難が始まると、それを増幅させるだけのマスコミ報道。
本作でも、リチャードを一度は英雄扱いをしたマスコミは、手のひらを返したように今度は犯人扱いをする。
リチャードの家の周りに四六時中詰めかけ、視聴者を扇動するような報道をするマスコミ。
日本のワイドショーも同じ感覚なのだろう。
マスコミの標的にされたものは、精神的にまいってしまうだろうなあ。
さてそんなFBIの追求、マスコミの一方的な非難に困惑したリチャードは、弁護士のワトソン(サム・ロックウェル)に助けを求める。
このワトソンが素晴らしい人物。リチャードの無実を信じて的確な指示をしていく。
さあ、リチャードの嫌疑は晴れるのか?
さすがにイーストウッド監督だけあって冗長さがまったくない。
描きたいことだけを抽出して過不足なく提示してくる。これ以上付け加えるものもなければ、どこか削れる部分もない。
そのことによって映画のテーマがくっきりと浮かび上がってきていた。
リチャードの人物造形もきれいごとにはしていない。
彼は正直で融通もきかない真面目人間なのだが、どちらかといえば愚鈍ともいえるような描き方となっていた。
実在した人物を扱う場合、さらにその関係者がまだ生存している場合、どのように作品化するかはなかなかに難しいのだろうな。
映画の最後のテロップでは、彼は41歳で死亡したとのこと。
そして残された母親は、息子の名誉が回復されたとしてこの映画化を大変喜んだとのことだった。