あきりんの映画生活

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「扉をたたく人」 (2007年) 扉をたたく人を受け入れてあげたいのに

2007年 アメリ
監督:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンス、 ハーズ・スレイマン、 ヒアム・アッバス

不法帯在者と孤独な男。 ★★★

 

原題は「The Visiter」。これは”訪問者”というよりも”外来者”といった意味合いなのだろう。
移民の国だったアメリカだが、2001年の9.11以降は”外来者”に対する視線が大変に厳しくなった。
ある場合には迫害にも繋がるようなこともあったらしい。

 

この映画はそんな状況下での不法滞在者問題を縦軸に、そして生きる目的を見失っていた初老の男の心の変化を横軸に描いている。

 

経済学教授のウォルター(リチャード・ジェンキンス)は妻がこの世を去ってから孤独だった。
研究や執筆、そして大学での講義と、表面上は忙しく生活しているように見せているのだが、実は生きる目的を見失っていた。
ただ惰性の毎日を続けているだけだったのだ。

 

そんなある日、学会出席のためニューヨークへ出かけたウォルターは、久しぶりに別宅のアパートに戻る。
すると、そこには知らない若者カップルが暮らしていた。
そりゃウォルターも驚くよね。君たちは誰だ? ここは私の家だぞ。

 

しかしカップルの方も驚く。彼らは騙されてウォルターのアパートを賃借していたのだった。
それはシリア出身の移民青年タレクとセネガル出身の恋人ゼイナブ。
あなたの家とは知りませんでした。ごめんなさい。
素直に立ち去ろうとするタレクたちだが、彼らに行くあてはない。
そこでウォルターは二人にしばらくの間の宿を提供することにする。

 

こうして彼らの共同生活が始まる。
それは、生きる目的を見失っている精神的弱者と、グリーンカード(永住許可証)を持たない社会的弱者との、弱々しいけれども互いを支えあう生活である。

 

ウォルターを演じるリチャード・ジェンキンスがとても好い雰囲気である。
物静かで、今はもうすべてに引っ込み思案。
そんな彼のタレクたちに対する優しさは、誰かと繋がっていたいという思いから出たものかもしれない。
無意識のうちに、自分も誰かに優しくされたいという儚い望みがあったのかもしれない。

 

さて。ジャンベというアフリカ太鼓のミュージシャンであるタレクは、興味を持ったウォルターにその手ほどきをする。
次第にジャンベを叩くことに夢中になっていくウォルター。
タレクと二人で公園に出かけて、タレクの音楽仲間たちと一緒にジャンベを叩く姿は微笑ましかった。

 

しかし不法滞在者であることからタレクは入管のような施設に強制収容されてしまう。
タレクの母親はアメリカに在住していたのだが、タレクを心配して訪ねてくる。
相談されたウォルターも無力である。
どうしたらいいんだ、このままではタレクはシリアに強制送還されてしまうぞ。

 

残念だったのは、タレクが逮捕された後に物語の主軸がずれてしまったこと。
タレクはほとんど登場しなくなり、代わりにタレクの母親とウォルターの淡い恋物語になってしまっていた。
最後までタレクとの物語を見せて欲しかった。

 

邦題は、扉を叩く外来者をジャンベを叩く姿に重ね合わせていて、なかなかに工夫されているものだった。
真面目に作られていて、社会問題の提起もされている作品だったが、後半の失速が残念だった。