2004年 中国 129分
監督:ウォン・カーウァイ
出演:トニー・レオン、 チャン・ツィイー、 コン・リー、 フェイ・ウォン
「花様年華」の続編。 ★★★★
前作「花様年華」では、プラトニックに愛した女性チャン(マギー・チャン)と結ばれなかったチャウ(トニー・レオン)。
今作は、チャウがその後にめぐりあった3人の女性との恋模様を描いている。
前作の、閉じられた空間での湿度の高かった静的な物語に比べると、今作ははるかに動的である。
舞台は1967年の香港。
今は生活のために官能小説などを書いているチャウは、とあるホテルの2046号室の隣の部屋に滞在する。
前作でチャウがプラトニックな愛を交わしたチャンと一緒に過ごしたホテルの部屋が2046号室だった。
そして今チャウが書いているSF小説のタイトルも「2046」である。
そのSF小説では、主人公の男(木村拓哉)は美しいアンドロイドたちが客室乗務員を務める列車に乗り、2046という都市へ向かう。
そこは“失われた愛”を取り戻せる場所だというのだ。前作で”愛”はカンボジアの樹の洞に封じたのだった?
映画は小説世界と現実のチャウの世界が交差する。
そしてチャウの回想世界も限れ込んでくる。
それらは柔らかく絡み合って、全体がどこか夢の世界のような妖しい雰囲気を纏っている。
チャウの隣の部屋の2046号室には、高級娼婦のバイ・リン(チャン・ツィイー)が暮らし始める。
二人の間にはやがて男女の関係が生じる。
しかしバイ・リンは本気でチャウを慕っているのに、彼の方は遊びだと割り切っているようなところがある。
健気で一途なバイ・リンが可哀想。
演じているのがチャン・ツィイーなのでよけいに可哀想。
チャウがシンガポールにいた頃に苦境を助けてくれたのが賭博師のスー・リーチェン(コン・リー)。
暗い過去を背負った謎めいた女性という感じでチャウの前にあらわれて、そして去っていく。
登場場面はそれほど多くはないのだが、さすがコン・リー、しっとりとした余韻を残す。
もう一人の女性がホテル・オーナーの娘、ジンウェン(フェイ・ウォン)。
彼女は日本人商社マン(木村拓哉の二役)との叶わぬ恋に悩んでいる。
ジンウェンの愚痴を聞きながら、チャウが一緒に屋外階段でタバコを吸う場面も好かった。
挿入歌としてどこか懐かしい感情を誘う「シボネー」が出てくる。カーウァイ監督はこうした曲の使い方が上手い。
「恋する惑星」でも「夢のカリフォルニア」が効果的に使われていた。
小説世界が描かれる場面では、前作「花様年華」でも使われた「夢二」(鈴木清順監督作)のテーマ曲が流れていた。
映画で描かれているのは、毛沢東による文化大革命の翌年の香港である。
そしてその香港がイギリスから中国に返還されたときに、中国政府は2046年までは香港に社会主義政策をおこなわないとした。
カーウァイ監督が舞台にした香港は、雑多で色が溢れているような場所だった。
「すべての記憶は涙で濡れている」という台詞が出てくる。
チャウのモノローグで映画は進んでいた。
そのモノローグは基本的に映し出されている映像を解説しているのだが、その解説にはチャウの感情がにじみ出てくる。
回顧のモノローグなので、どこか切なさがつきまとっている。
人は精一杯に生きていこうとするのだが、哀しいことは常につきまとうのだ。その様が愛おしくも切ないのである。
時は流れ、人々は生き抜いていく。
情感があふれている映画だった。