2015年 台湾 108分
監督:ホウ・シャオシェン
出演:スー・チー、 チャン・チェン、 妻夫木聡
静かな女武侠もの。 ★★★☆
ホウ・シャオシェン監督の武侠映画である。
シャオシェン監督と言えば「悲情城市」「珈琲時光」といった作品である。静か動か、どちらだと言えば明らかに静の監督である。
さて、どんな武侠ものになっているのだ?
唐代の中国。女導師によって暗殺者として育てられた隠娘(スー・チー)が主人公。
13年後に親の元に返されるのだが、君主の田季安(チャン・チェン)を暗殺するという指令を受けていた。
その田季安は、隠娘のかっての許嫁だったのだ。
さあ、隠娘は田季安を殺すことが出来るのか・・・。
監督たるもの、一度は武侠ものを撮りたいと思うのだろうか。
有名どころの武侠ものとしては、チャン・イーモウ監督の「HERO」「LOVERS」、ウォン・カーウァイ監督の「楽園の瑕」や「グランド・マスター」、そしてアン・リー監督の「グリーン・デスティニー」などが思い浮かぶ。
どれもスタイリッシュで迫力のあるな武闘場面があり、アクション映画としても面白いものだった。
しかし、ホウ・シャオシェンは監督は、武侠ものを撮ってもシャオシェン監督だった。
アクション映画にはなっていなかった。
物語性も次に置いておいて、なによりも映像作家という感じであった。
物語の説明は極端に少ない。そのうえ、台詞もほとんどない。
はて、この人物はいったいどういう人なのだ? はて、この場面はいったいどういうことになっているのだ?
かなり判りづらい。
陰娘は弧を描いた短刀を逆手に持つ。そして相手の懐に飛び込んで切り裂く。
相手の長剣をかわすときの立ち回りや、鋭い音ともに飛んできて刺さる矢など、アクション場面も美しい。
そしてアクション場面なのに静かなのである。監督のこだわりか。
どうやら、田季安の母である嘉誠公主と、陰娘の師である女道士は双子の姉妹だったようなのだ。
そして嘉誠公主が田季安と陰娘を結婚させようとして二人に一対の玉をひとつづつ与えていたのだ。
この玉も意味ありげに出てきていたので、なんだろう?と思っていたのだった。
という具合に物語を追うことはかなり難しい。
監督は、この描き方で観ている人は物語が判ると思っていたのだろうか?
しかし、この映画の値打ちは、そんな物語の説明を犠牲にしてでも描きたかった美しい静寂の画面である。
その画面にとっては台詞は邪魔だったのだろう。
武侠ものを題材にして、生死のやりとりの緊張感を静かに描く、そんな狙いだったのだろうか。
静寂のアクションもの、という映像美を楽しみましょう。
カンヌ映画祭で監督賞を取っています。