あきりんの映画生活

映画鑑賞だけのブログです。★★★★が満点評価ですが、ときに思い入れ加算があります。約2000本の映画について載せていますので、お目当ての作品を検索で探してください。監督名、主演俳優名でも検索できます。

「余命十年」 (2022年) 10年後に死ぬ身だから、恋はしない

2022年 日本 125分
監督:藤井道人
出演:小松菜奈、 坂口健太郎

難病のヒロインの恋物語。 ★★☆

 

タイトルといい、難病と闘いながらの恋愛というキャッチフレーズとくれば、ある程度の予想をしてしまう。
しかし、この映画の見所は、そうしたものに付きまといやすいきれい事を棄てているところ。
ヒロインもその相手も、とてもリアルに描かれているところだった。

 

原作者は、映画のヒロインと同じ肺動脈性肺高血圧症だったとのこと。
小説を書き上げたものの、その本が出来上がる前に38歳で亡くなっているようだ。

 

未だに治療法のない肺動脈性肺高血圧症。
この病に罹患した茉莉(小松菜奈)は、20歳の時に余命10年と宣告される。
余命を知った彼女は、生きることに執着しないために恋をすることを封印した。
しかし、同窓会で再会した和人(坂口健太郎)に心を惹かれていく。

 

小松菜奈は贔屓の女優さん。
初めて観た「ぼくは明日、昨日の君とデートする」で、独特の雰囲気を持っているなあと印象に残った。
「糸」ではそれほどにも思わなかったのだが、本作では過酷な運命を健気に受け止め、ときに弱音を吐くヒロインを好く演じていた。

 

茉莉は自分の病のことを隠しながら、生きることに絶望していた和人と支え合っていく。
しかし、恋をする喜びが大きくなるほどに、茉莉はもっと生きていたいと思ってしまう。
その生への執着が高くなるほどに、不治の病という厳しい現実との乖離に苦しむのだ。
これは辛いよなあ。

 

一方で一時は死を望んでもいた和人は、恋をすることによって新たに生き始めていく。
この二人の死を挟んだ対比が、無慈悲な現実をくっきりと見せていた。

 

脇役では焼き鳥屋の主人を演じたリリー・フランキーが好かった。
この人はどこかとぼけているようで、人生の機微を知り尽くしているような粋なところも見せる。何とも言えない独特の味をもっている。
この人が出てくると、物語に出汁の効いた味が付け加わるような感じがする。

 

10年間の物語である。余命十年のヒロインは、逆の言い方になってしまうが、自分の死期を知りながらその日に向かって10年間を(も)生きなければならない。
人によっては、そんな辛い10年間は生きたくないと自棄になる人もいるだろう。
自分だったらどうするだろうと、(老い先短い身としては)つい考えてしまう。

 

茉莉は自分の生きた証を残そうとするかのようにビデオカメラでの記録を撮っていた。
しかし、いよいよ病状が悪化してきたときに、病室でそれらの映像を次々に削除していくのである。
自分の存在を消してしまおうという行為であり、この場面には、ああ、と思ってしまった。

 

茉莉が「(病人とその周りの人と)一体どっちが可哀想なんだろうね」という言葉を発する場面もあった。
不治の病の茉莉はもちろん可哀想だが、それを知ってしまっている家族も辛い。
茉莉はそのことを知っていたからこそ、自分の病のことを誰にも話せなかったわけだ。
これも精神的には苦しいことだったろうなと思ってしまう。

 

桜が咲きほこり、そして花吹雪となって散っていく。
原作者は物語のヒロインが死ぬ場面も描いたわけだ。

それは遠くない日に自分の身にも起こることを物語として描いたわけだ。
それを思うと、この映画のリアルさは生半可なものではないのだなとあらためて知らされる。

 

難病ヒロインの恋愛ものでしたが、しっかりと作られていました。