2022年 日本 139分
監督:瀬々啓久
出演:阿部寛、 北村匠海、 安田顕、 薬師丸ひろ子
父子物語。 ★★☆
原作は重松清の同名小説。
彼の小説は好きでよく読んでいるが、登場人物は基本的に善人ばかりである。
そんな人たちだからこその、少し寂しい話がくり広げられる。
物語は、ヤスさん(阿部寛)の息子であるアキラ(長じてからは北村匠海)の語りで展開されていく。
運送トラックの運転手であるヤスにアキラが生まれたとき、周りの皆は”トンビが鷹を生んだ”と評した。
つまり映画タイトルの”とんび”は父・ヤスさんのことである。
映画は父と私(アキラ)の長い物語である。
ヤスさんは酒好きで怒りっぽい。善人で他人に対しての悪気はないのだが、ぶっきらぼう。
息子に対しても愛情をうまく表わせない。そのために父と子はしばしば感情が行き違ってしまう。
ある事故で妻が亡くなってしまい、そのあと、ヤスさんは父親一人で、不器用に、それでも伝わりにくい愛情いっぱいでアキラを育てていく。
物語の時代は私にとっては懐かしい昭和30年代から始まっている。
ヤスさんは当時の流行歌などを大声で歌う。これは時代感を出すのには効果的だった。
(アキラという命名は小林旭からとったことになっていた)
そしてロケ地は岡山。私にとっては親近感がわく風景、言葉遣いである。
ヤスさんは好い人である。
一本気で喧嘩っぱやいが、どこか憎めない人柄で、周りの皆からも好かれている。
映画で他人の物語としてみていると、それは好く伝わってくる。
たとえば、幼なじみのバツイチで小料理屋をしている姉貴分のたえ子(薬師丸ひろ子)はヤスを慰め励ましてくれる。
幼なじみの住職・照雲(安田顕)はことあるごとに、憎まれ口を叩きながらも裏から支えてくれる。
(後半に、アキラが恋人を連れてヤスさんに会いに戻ってくる場面がある。ここでの安田顕は好かった。こういう人がいてくれて、ヤスさん、よかったね。)
しかし、(こんなことを言うと顰蹙ものだろうが)ヤスさんのような粗野な人物が実際に身近にいたら、なんだかやっかいだなと思ってしまいそうだった。
もちろん映画だから誇張して描かれてはいるわけだが、それにしても、である。
まあ、映画としてヤスさんという人物の生き方を味わえば好いわけなのだが・・・。
物語の大きな要となっているのは、アキラの母親が亡くなった事故。
そのことを詳しく知りたいというアキラに、ヤスさんは大きな嘘をつく。
その嘘はアキラの気持ちを傷つけないためについたものだったのだが、それによってアキラはヤスさんを恨むようにもなってしまうのだ。
これは辛い。観ている者もヤスさんの心情を思って、辛い。
最後の最後までヤスさんは意固地なままでアキラを思っている。
そんなヤスさんをアキラはどこまで思ってくれていたのだろうか。
もう少しだけ素直に気持ちをあらわしていれば寂しさも少なくて、もっと穏やかに幸せになれたのではないだろうかと、これは無い物ねだりでヤスさんに思ってしまった。
悪い人は一人も登場しません。
人の気持ちの優しさと、それゆえの寂しさを描いた作品でした。
家族で安心して鑑賞できます(少し照れくさい?)