2022年 アメリカ 151分
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:ガブリエル・ラベル、 ミシェル・ウィリアムズ、 ポール・ダノ
スピルバーグ監督の自伝的映画。 ★★★☆
スティーブン・スピルバーグ監督が自分の記憶をたどり、幼少期から映画界に入るまでの思い出を描いている。
原題は「ザ・フェイブルマンズ」と冠詞が付いた姓の複数形である。
この表現は家族を指しており、ということはこの映画がサミー少年だけの話ではなく、一家の話であることをあらわしているわけだ。
映画館で初めて映画を観た少年サミー・フェイブルマンは夢中になる。
そして好き理解者である母親(ミシェル・ウィリアムズ)から8ミリカメラをプレゼントされる。
よし、これで僕も映画を撮るぞ。
父親(ポール・ダノ)は優秀なIT技術者で、合理的な考え方をする科学者。
社会生活上は常識人で、破天荒なところはない。とてもよい家庭人なのだ。
一方の母親はピアノをよくする芸術家気質。もちろん家族を愛してはいるのだが、どこか破天荒なところがあり、精神的には危ういところを感じさせる。。
父はサミーの映画愛を認めてくれているのだが、本質的なところを理解してくれているのは母の方のよう。
サミーの学校生活では、淡い恋があったり、ユダヤ人である故の苛めがあったり。
海辺での学校行事の記念映画撮影をまかされたサミーは、自分を苛めていたローガンを格好好く撮る。
上映された映画を観た皆に賞賛されたローガンは、なぜあんなに格好好く撮ったんだととサミーに詰め寄り、泣き始める。
あの場面は、美化も卑下もしないで編集により物語を作ったことによる迫力があった。
そしてこの映画の一番の山場は、サミーの両親の思いのすれ違いだろう。
父の同僚だった人物がいる。彼は家族同然につき合っていたのだが、いつしか母と思いを通じさせていくようになる。
そして家族の記録映画を撮っていたサミーは、画面で捉えたその二人の何気ない姿に真実を知ってしまう。
父を裏切った母、そして母に裏切られてしまうような接し方しかできなかった父。
サミーは自分が撮った映像で自分自身を苦しめてしまう。
サミーは撮ったフィルムを編集して、真実を父から隠そうとする。
しかし結局は両親は離婚してしまったのだ。
いわゆる巨匠監督の自伝ものであるが、本人が作っているために圧倒的なリアリティーがあった。
他者が撮ったらあらわれてくる可能性があった妙な忖度のようなものがない。
自分自身、そして自分の家族を冷静に、しかし熱い思いを持って描いている。
さすがである。
両親が亡くなったあとでないとこの映画には撮れなかったと、スピルバーグ自身は思っていたとのこと。
なるほど、それだけ彼にとっては大きな意味を持つ作品であり、覚悟を持って制作したのだろう。
映画の最後、撮影所を訪れたサミー青年は、憧れだったジョン・フォード監督と対面する。
ああ、ここから少年時代に撮った玩具の電車の脱線が「激突!」になっていき、戦争映画が「プライベート・ライアン」になっていくのだな。
ここですっぱりと映画が終わっていたのが潔かった。