2003年 フランス 109分
監督:ミヒャエル・ハネケ
出演:イザベル・ユペール
ディストピアの不条理映画。 ★★★
ハネケ監督である。
私には、ラース・フォン・トリアー監督と並んで嫌~な感じを与えてくる映画を撮る監督である。
それでも一定の時間が経つと、また観てみようかなと思わせる監督である。
二人の子供を連れた夫婦が別荘にやって来る。
するとそこには移民のような一家が入り込んでいて、銃を突きつけてくる。
口争いをしている間もなく、いきなり父親は撃ち殺されてしまう。
なんという展開だ。母親と子供二人は1台の自転車で逃げはじめる。
あたりは荒れ果てた田舎風景で、助けを求める人々も素っ気ない。
どうやら世界は何かの危機的状況にあるようで、みんな自分たちが生き延びることだけで精一杯のようなのだ。
途中では家畜が燃えていたり、息子が止まりにくい鼻血を出したりする。
この世界でいったい何が起きているのか、などという説明はいっさいない。
ただ不安に満ちた世界であることだけを伝えてくる。
不条理といってしまえばそれまでで、そもそもハネケ監督だから説明を求める気持ちも観る側にはないのだ。
どこかへ向かう列車がたくさんの人を乗せて傍らを走りすぎていく。
その列車に乗れれば、ここからは違う場所へたどりつけるらしいのだ。
でも、それはどこ? そこに行ったら何がある? そんなこと、何も判らない。
ハネケ監督だなあ。
やがて家族は線路脇の倉庫のような場所に辿り着く。
そこには同じように列車に乗ろうとする人々が集まって生活をしていた。
飲める水の量は限られていて(何かに汚染されている?)、この世界で価値があるのはお金よりも物なのだ。
リーダーの男が、みんなから集めた物を街へ持って行って食料を手にしてくる。
時折やって来る水売りは物々交換で水を分けてくれる。
見せつけられる世界はひたすら暗く、陰鬱な気分になる。
いつ列車が来るのか、その列車は止まってくれるのか、それすらも判らないままに日が過ぎる。
人々は疲れ果て、人間的な欲望も露わになってくる。
動物の死骸があちこちに散乱し、そこにはウジが湧いているのだ。
核戦争後の世界、と考えれば一番判りやすいのだろうが、そんな風に考える必要もない。
ただただ危機的な世界での閉塞状況を描き、そんな世界での希望の在りかを問いかけてきている。
ついには幼い息子は炎に身を投じようとする。そのことによって人類を救おうとする。(ポスター写真はその場面)。
息子は危ういところで制止されるのだが・・・。
最後、車窓に流れる明るい田舎風景が映し出される。
これは希望が成就した風景なのだろうか。・・・どう思います?
最後にハネケ監督の言葉を。
「居心地のよい世界で、終末を見ている社会に対し、この作品を提示したかった」
うん、ハネケ監督だな。